No.3-12 満たされた欲望による、枯渇
初めて勤めた会社は、大阪市内で女性向けのフリーペーパーを作っている、小さな小さな編集プロダクションでした。
すべてが初めての経験だったので、先輩の取材に同行しながら取材の仕方を学び、自分なりに書いた原稿を編集長に直してもらいながら書き方を学び、校正の記号を教えてもらい、ひとつずつひとつずつ仕事を覚えていきました。
その過程は、純粋に楽しかった。
慣れてくると、一人でクライアントさんのところに取材に行き、原稿をまとめ、校正のやり取りをして、掲載誌を送る。それとは別に、映画担当として、配給会社から送られてくる資料を元にしたり実際に試写会に行ったりして、原稿を書いたりもさせてもらっていました。
とにかく「書く」仕事ができていることが嬉しくて、毎日が幸せでした。
もちろん、失敗したり、クライアントさんから怒られたり、うまく取材ができなかったり、咄嗟の判断がくだせないことがあったり…、思うようにできないことを大変だな、と思ったことも、たくさんあります。
でも、実感がありました。あ~好きな仕事ができてるんだなっていう、細胞レベルの実感。だから、なんでもできた。自分らしく、無理することなく。
でも、人間というのは欲深いもので、ひとつが叶うと、新たな欲や望みが生まれてくるもの、です。安定に溺れることを嫌う、というか…常に刺激を求める癖が、私にはあるようで。
毎日の仕事に満足していたはずなのに、1年が経ったころからその心境に少しずつ変化が生じ始めました。初期段階の一番の欲望が満たされてしまったことによる、心の枯渇…。そのとき置かれていた現状では、もう、目指すものがなくなってしまったのです。
それは、ひどく恐ろしいことのような気がしていました。