毎年今ごろになると別荘に出かけて大慌てで
庭の樹に登る人がある。
登ったかと思うと危なっかしく収穫を終えて
温泉に浸かって引っ掻いた枝の傷跡を愛しんで
いる。
愛しんだかと思うと、車に飛び乗り、道の駅
にたちよって江戸の自宅にたちもどるのである。
戻ったかと思うと、知人や友人から親戚、
趣味絡みのネットワークの面々、テニス仲間、
果ては家政婦さんたちやふらっと現れたマン
ションの管理員にまで檸檬をお配りしている。
くばる作業とくばる気遣いに疲れ果てて数
日のあいだは呆然と過ごしているこの人。
この時期、春休みが始まってるからさした
る影響はみとめられないものの。
でもというか、そしてというべきか、
農薬も保存料もない国産果実なんて
最高なのになぁ
って時々呟きながら、いつも差し上げた途
端にはっとしてまたきゃーとして喜んでくれ
る満面の笑顔を見る喜びは何にも代え難いけ
どなぁって思っている御仁。
これ、誰かといえば、紛れもないわたし
である。
しかし、いつまでもこれではあまりにも芸
がないので、今年にいたって、なんと、配布
をやめてしまったから、お立ち合い!。
収穫して来た檸檬は、みんな自宅で美味し
いものに加工することにしたのだ。
こんなときはいつも迷うわたし。はちみつ
漬けがいいか?
氷砂糖か?
その半々か?
いずれもいいけど、今までいちども試みたこ
とがないのが氷砂糖。
これに漬けることにしたのだ。冷暗所へ。
はちみつより断然豪華!
びんのてっぺんでこの企画事業を取り仕切
っているようなこおりの存在感がすごいから
だ。ひとつほんものの氷も乗っけてみる。
三週ほどで美味しくなるから、来客たちに
紅茶と一緒にふるまって美味しいと言わせる
のだ....と所信をのべておいたら、いつのまに
か、妻と母が予定を繰ってみて、、、
さいしょの相手はどうやら月一で会議しに
来訪する編集者たちになりそうだと話してい
る。それが廊下の奥の書斎まで、とぎれとぎ
れに聞こえてくる。