声で伝えた「日本の父」 (追悼・永井一郎) | 昭和の芸能を語るブログ

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とあるSNSサイトでよく聞かれる質問の一つに、「好きな声優さんは誰ですか?」というのがある。
その質問の回答には、水樹奈々や杉田智和といった最近のアニメで活躍している声優の名を挙げる人もいれば、若本規夫や日髙のり子といったベテラン勢の名前を挙げる人もいた。
私はこの人の名前を必ず挙げる。

「永井一郎」


我が家の娯楽はテレビを観ることだということを以前のブログで書いたが、小学生の頃の私はこのテレビを観ることしか楽しみがなかった。
小学生ともなると同級生たちはカードゲームや機械ゲームなどを親に買ってもらって、それに夢中になっていた。
私の母は「どうせ流行りもの、すぐ廃るのだから買う必要なし」、「ゲームなんてやったら目は悪くなるし、勉強しなくなるからいらない」ということを常に言っていて買ってくれず、同級生たちがワイワイ集まって楽しそうにゲームをしている姿を、私は横でただ眺めているだけのつまらない日々であった。
同級生の会話も自然とゲームの話になってしまうのでその話の輪の中に入れず、つらい思いをしたこともしばしば。
おまけに私の住む地区は当時子供が私一人しかいないに等しく、そんな環境下から次第に外へ出て遊ぶことをしなくなり、小学校低学年生の時点でテレビの世界に夢中になっていくのであった。
あの頃は小学生だったこともあり、私はアニメを夢中になって観た。

「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「サザエさん」といった定番アニメから、「ど根性ガエル」「小公女セーラ」「宇宙エース」といった古いアニメ、さらには「魔法少女リリカルなのは」「灼眼のシャナ」などの深夜アニメまでとにかくアニメというジャンルのものなら貪るようにあれこれと観た。
こうして色々なアニメを観たことによって、色々な声優さんを知ることができた。
数いる声優さんの中で、その高い技術力に感心し好きになったのが、野沢雅子と永井一郎の両人であった。


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永井一郎という人はその「声」に特徴がある。
どんな役を演じても、あの独特で特徴ある声ですぐにわかる。
それでも、どんな役だろうが違和感なくフィットしてしまうのだからすごいお人だ。
声優さんには、役によって声を変える人と声を変えない人の二パターンに分かれるが、永井一郎はその後者の代表選手であったように思う。
どれも作品名とキャラ名を見れば、脳裏にあの永井一郎の声が自然と再生される。
昔のアニメの再放送を観る度に、「この作品にも永井一郎が出ている!この作品にもか!」と、よく感動していた。

「あっ!この声は永井一郎だな!」と、エンディングのキャストロールを観る前にわかったときの喜びは未だに忘れられないし、そうした見つける作業がとても楽しかった。
私の青春は、まさに永井一郎の声と共にあったといっても過言ではない。


ここで私が観てきたアニメの中で、永井一郎が声を担当した作品とキャラを振り返ってみる。


・「ゲゲゲの鬼太郎」子泣き爺
・「サザエさん」磯野波平
・「ど根性ガエル」町田先生
・「山ねずみロッキーチャック」うさぎのピーター
・「フランダースの犬」ノエルじいさん
・「あらいぐまラスカル」ガブリエル氏
・「くまの子ジャッキー」ロッキー爺さん
・「無敵超人ザンボット3」ナレーション
・「未来少年コナン」ダイス船長
・「機動戦士ガンダム」ナレーション
・「りすのバナー」ミミズク爺さん
・「トム・ソーヤーの冒険」ドビンズ先生
・「うる星やつら」錯乱坊
・「じゃりン子チエ」小鉄
・「名犬ジョリィ」セザル
・「クレヨンしんちゃん」マスターヨダ


殊に印象深いのは、「サザエさん」の波平、「ど根性ガエル」の町田先生、「未来少年コナン」のダイス船長、「クレヨンしんちゃん」のマスターヨダ、あたりだろうか。


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私が「サザエさん」のファンになって、もう何年になるのだろう。
毎週日曜日の放送を録画し、何度も何度も繰り返し観てきた。
それだけに、サザエさん一家の要である波平の声の永井一郎を失ってしまったのがとてもつらい。

こんな急にお別れしなければいけないなんて思いもしなかった…
未だにこの現実を受け止められないでいる。

今年は「サザエさん」の放送開始から45周年という節目の年。
だからこそ、第1回から波平役を務めてきた永井一郎がいてほしかったし、この節目の年に悲しい報せを聞きたくなかった。


ここで、2月3日に行われた告別式で、サザエ役の加藤みどりと三代目となるカツオ役の富永みーなによる弔辞を載せてみる。


サザエ:父さん、45年間、行ってらっしゃいの声で1日が始まったのよね。
カツオ:でも、もうお帰りはないんだよね。父さん大好きです。もっといっぱい一緒にお風呂に入りたかった。もっと叱られたかった。
サザエ:私もお酒に合うお料理を作って、父さんに、これはうまいと褒めてもらいたかった。でもね、父さんきっとその辺で、いつもいつも私たちを見守っててくれてるよね。そう思う。
サザエとカツオ:磯野波平の永井一郎さん、さようなら。


これをテレビで観て聞いて、涙がとまらなかった。
加藤みどりは涙を流さず気丈にサザエの声で父・波平に語りかけ、加藤みどりのプロ意識の高さを感じた。
改めて読み返してみると、本当に波平が亡くなってしまったかのようで泣けてくる。

「サザエさん」だけでなく、永井一郎の死は本当に声優界にとって大きな損失である。
これほどの至宝を失ってしまったのは、あまりに痛すぎる。
改めて、永井一郎の死が惜しまれてならない。

いよいよ明日放送の「サザエさん」が、永井一郎の声による波平さん最後の放送日である。
あの声をしっかりと耳に焼き付け、永井一郎とさよならしたいと思う。