職場を離れてからの二年間。
趣味のDIYやツーリング、トレッキングを楽しみ、時間だけを見れば、とても贅沢で充実した毎日を過ごしてきた。
それなのに――
妻が出勤すると、家の中は急に静かになる。
会話相手はいなくなり、近所との挨拶も最低限。
同僚や友人とのやり取りも、気づけばかなり減っていた。
一日が終わって、「今日は一言も声を出していないな」と気づくことが増えた。
そのたびに、言葉にできない虚しさが、じわっと胸に広がる。
これまで考えたこともなかったが、人が人らしく生きるには
「食べる」「動く」「社会参加」
この三つが必要らしい。
振り返ってみると、「食べる」「動く」は十分すぎるほど満たされていた。
けれど、「社会参加」だけが、いつの間にかすっぽり抜け落ちていた。
人との関わりは、人間性を保つための大事な支えだ。
待っていても、誰かが来てくれるわけじゃない。
自分が動かなければ、何も始まらない。
そう思うようになった。
そんな時、市のLINEで「認知症フォローアップ講座」という案内が目に留まった。
正直、内容はよく分からなかったが、「まずは動いてみよう」と受講を決めた。
講座では、「認知症」を正しく理解することから始まり、
地域での見守りやサポート、徘徊する方への対応、傾聴など、さまざまな関わり方を学んだ。
これまで何気なく使っていた「認知症」という言葉。
「いったい誰が、どうやって診断するのだろう?」
そんな素朴な疑問も、受講のきっかけのひとつだった。
三回目の講座では、「認知症カフェ」を運営している方の話を聞き、実際に見学させてもらった。
月に一度のカフェを楽しみに、後期高齢者の方が10名ほど集まる。
お茶を飲み、簡単なクラフトをし、体操や歌を楽しみ、二時間ほどゆっくり交流して帰っていく。
男性は声をかけてもなかなか来ないそうで、参加者はほぼおばあちゃん。
気がつけば、私もその輪の中に入り、話を聞いたり、手伝ったりしながら、同じ時間を過ごしていた。
認知症カフェは、市包括支援センターが主体となって進めている活動だ。
自分の地区にも「◯◯カフェ」があると知り、そちらにも参加するようになった。
公営住宅の集会所を使っていることもあり、こちらには男性参加者が3〜4人いる。
少し安心した自分がいた。
さらに、「となり組」という地域活動グループも紹介され、参加することになった。
大先輩の方々や地域の人たちと顔を合わせ、言葉を交わす。
それだけのことが、こんなにも心を温かくするとは思わなかった。
「他にも何かできることはないか」
そう思い、シルバーワークプラザを訪ねた。
無料で参加できる教室がたくさんあり、
英会話教室、料理教室、レザークラフト教室を受講することにした。
60歳以上が対象で、新規優先とのことだが、長く続けている先輩方も多い。
その姿が、少し先の自分のようにも見えた。
こうして目標ができ、予定が入り、人と会う理由が増えていく。
気づけば、職場にいた頃のような「張り」や「充実感」が、少しずつ戻ってきている。
歳を重ねても、まだできることはある。
人と関わることで、自分も支えられているのだと、今は素直に思える。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。