Valerie
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告白

いつものように、家に電話が掛かってきた。


「今度、挨拶に行くって話、言ってくれた?」


まだ両親には話していないと告げると、


「お父さんが厳しいのは分かってるけど、


やっぱり早めに話しておきたいんだ。」


私は重い口を開いた。


「ごめん・・・・・。 今、結婚の約束はできない。」


彼は、しばらく黙り込み、そのあと、こう言った。


「わかった。 電話じゃなくて、今度会った時に、ゆっくり話そう。」


それを言う必要があるのか、どうかも分からなかったけど、


私は、すべてを話しておきたかった。


しかし、


「今、気になる人がいて・・・・」


と言いかけたところで、


「お互い、冷静に考える時間が必要だね。


しばらく連絡を取るのはやめよう。」


そう言って、彼は電話を切った。



彼からの電話を取り次いだ母親は、隣の部屋にいたが、


なんとなくすべてを感じ取っていたようだ。



「どうなってるの? あなたたち。


まさか、あの手紙の人?」


私が頷くと、


「何を考えているのか分からないわ。


あの手紙の人とどうするつもり?」


と聞かれたが、


彼に対する罪悪感や、遠い国のあの人のこと・・・・


色んな思いが交錯して、


「どうもしないけど・・・・。」


と答えるのが精一杯の私だった。



アンフェア

「結婚の話を、具体的に進めたい。」


彼がそう言ってきたのは、それから数週間後のこと。


「まだ君の両親にも、ちゃんと会ってないから、


近々きちんと挨拶したいと思っているんだけど。」


と。



私たちは中学の時に、すでに付き合っていたため、


私の両親は、彼のことを知っていた。


しかし、中学生だった私たち。


両親ともに、父親にいたっては、彼に大して、ものすごい嫌悪感を


抱いていたと思う。



あれから7年。


21歳と23歳になった私たちのことは、当時に比べると、多少は


黙認している部分があるかもしれないが、それでも厳しい状況には


変わりなかった。


父親は、相手がどんな人であれ認めないという昔気質の人間だから。



「結婚」は、あまりにも突然過ぎる。


大きな事件に、なることだろう。



が、一番問題なのは、私が彼と同じ気持ちではないことだ。



まだ、社会人になったばかりの21歳。


これから、やりたいこともいっぱいある。



そんな理由を心の中で繰り返すも、それは単なる自分に対する


言い訳だということもわかっていた。



こういう気持ちで一緒にいるのは、フェアじゃない。


私は、決断した。




罪悪感

どんなに離れていたって、スカイプを使えば、顔を見ながら、


いつでも会話ができる今。


「文通」なんて言葉は、ほとんど死語のようなものだ。



25年前は、パソコンすらない時代。


国際電話は、びっくりするほど高く、気軽に掛けられるような


状況ではなかった。



会えない。


声も聞けない。


すぐに連絡が取れない。



そのことが、余計に想いを募らせていた。




そんな私は、まだ二つ年上の彼氏と付き合っていた。


大好きなサッカーができる環境にいることは幸せだと言う彼だったが、


実際のところは、激しいポジション争い、家族や地元の期待、合宿所暮らしに、


ストレスがたまっている様子だった。



「君といると、ホッとできる。」


その言葉を聞いた瞬間、今まで感じたことのなかったような、


ものすごい罪悪感に襲われた。



「次のシーズンが終わったら結婚できるように、頑張るよ。」



彼の望むような言葉を、私は返せなかった。



黙っている私に、


「どうしたの? ヘンな顔しちゃって。 なんかあった?」



自分でも、なんと言っていいのか、何と言うべきなのか、混乱していた。



胃が痛くなるようなプレッシャーの日々を過ごしている彼を思うと、


本当のことは、このとき言えなかったのだ。


芽生え

文通が始まった。



あまりに情けない自分の英語力に、英語学校に通うことも考えた。


しかし、時代はバブルに沸き始めていた頃。


仕事が、とにかく忙しく、終電で帰宅ということも、珍しくなかった。



「次に手紙が来たら、こんなことを書こう。」


そう思ったら、すぐに辞書を手に取り、夜中まで英語と格闘。


どんなに寝不足でも疲れるということはなく、仕事漬けの中、


隔絶した別世界を楽しむことができる唯一の時間だった。



「君の声が聞きたい。」


「会えなくてさみしい。」



そういう彼からの手紙に、



「I want to hear your voice, too」


「I miss you, too.」



そのまま同じフレーズを返した。


本当に、そう思っていたから。



たった一回しか会ったことがない人を好きになった。.


大して言葉も通じないのに。



いつか、そこに

付き合っている人に何も言わず、遠い国の素性もよく分からないような人に、


手紙を書いている自分。



一体、私は何がしたいのか?



しかし、またニューヨークに行こうとは、まったく思っていなかった。


いや、正確には、行くことができないだろうと思っていた。


それくらい海外旅行は、手が届かない贅沢なものだったから。



彼の写真を見て、眠りにつく日々が続いたある日、


仕事から帰ると、私の机の上に、白い封筒が置かれていた。


差出人は、「Terrence」。



顔がほてるのが分かった。



手紙には、


「元気ですか? 返事ありがとう。


いつか、そこに行けたらいいな。」


その短い文章を、どれくらい見ていただろう。



ふと気がつくと、後ろに妹が立っていた。


「ねえ、その人誰? ママが心配してたよ。」



心配する気持ちは、理解できる。


でも、考えてみたら、ただの文通だ。


後ろめたいことをしている訳ではない。

母親に何か聞かれたら、正直に話すつもりだ。

「その人、かっこいいの?


 でもお姉ちゃん、英語できないよね?」


まだ高校生の妹は、クククッとイタズラっ子のように笑って、部屋を出て行った。



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