バケツの底に開いた穴からどれだけ早く水が抜けるか

 

流体の計算、または実験で、比較的シンプルなもののひとつ。

タンクの底に開けた穴から流れ出す流速を計算できる。

トリチェリの定理で有名。

 

実際に測定してみると、基本的には計算式の通りになるのですが、

条件次第で計算通りにならない、という結果でした。

 

実際の流体の動きは、そんなに簡単ではありません。

それでも、実験と計算とのずれをよく観察することで、新しい発見もあります。

 

忙しい方のために、動画にしました。

ご自分でもやってみたと思って、ご覧ください。

 

トリチェリの定理

 

ベルヌーイの定理から導出されます。

タンクの底にあけた穴から流れ出す流速は、下記のように計算されます。

 

穴から水面までの高さh

流れ出す流速v

v=√2gh (m/s)

 

穴の径や形状、タンクの形状にはあまり関係なく、穴から水面までの高さだけで流速が決まる。

高さhから自由落下する物体と同じ計算式になる。

 

というものです。

 

 

水面までの高さhが大きいと、速度v2も大きい。

 

タンクの水量が減って、水面までの高さhが小さくなると、速度v2も小さくなる。

 

トリチェリの定理が成り立つのは、下記が重要と言われています。

 

・流出することで、水面の高さhが変わらない、無視できるほど小さいこと

・つまり、流出する穴の面積A2に対して、タンクの水面の面積A1が十分大きいこと

・穴の形状が滑らかでスムーズに液体が流れ出すこと

・液体は、非圧縮性であること。圧力によって、体積がほとんど変わらないこと

・非粘性流体であること。または、抵抗が無視できるほど小さいこと

・大気圧以外の力が、外部からはたらいていないこと

 

実験結果

 

2Lのペットボトルを横にして、そこに近いところに別のペットボトルの飲み口をくっつけて、

キャップに小さな穴をあけて水を入れ、

受け側の容器の質量を測定できるようにしておいて、

ペットボトルの水面から穴までの高さh

経過時間t

流出した液体の質量m

穴の面積A

を測定しました。

 

 

水の密度はわかっているので、

測定した質量mを密度で割ると体積が分かります(体積流量)

1気圧では、999.97 kg/m3

 

穴の直径は、4.63 (mm)

穴の面積A2は、16.8x10^-6 (m2)

 

体積流量を穴の面積A2で割ると、流速v2が計算できます。

 

 

理論式

v2=√2gh

で得られた流速と

 

実験で得られた流速を比較しました。

 

グラフにするとこんな感じ。

 

 

実験で得られた流速は、生データと、データを平準化したものを表示しています。

 

実測流量(平準化後)/理論流速=約73%

 

穴出口での損失、オリフィス効果などから、理論値より小さくなっています。

 

本当にトリチェリの定理が成り立つのか

 

上の試験は、トリチェリの定理が成立するように、実験パラメーターを調整したものです。

 

本当にいつでもトリチェリの定理が成立するのかどうか、条件を変えて試験を繰り返しました。

 

条件1 容器の形状 1-1 水面が広い広口容器、1-2 水面が狭い縦型容器

条件2 水が出る方向 2-1 容器の底で、横方向に水を出す、2-2 容器の底で、下方向に水を出す

条件3 出口穴の形状 3-1 平らなキャップに穴が開いている、3-2 キャップに、じょうろ状のノズルがついている

 

結果は

 

条件3、穴出口のノズルがあると、流速が上がる

条件1、容器は横に広いより、縦に長いほうが流速が上がる

条件2、タンク底の穴が横に出ているか、下に出ているかは、あまり影響がない。しいて言えば下に出すほうが少し流速が上がる

 

それぞれの主効果を表にすると、

 

 

グラフにすると、

 

 

実験詳細

 

実験1 水を横に出す、ノズルなし、広口容器。上の実験と同じです。

 

実測流速/理論流速=73.26%

 

実験2 水を横に出す、ノズルなし、縦型容器

 

実測流速/理論流速=80.98%

 

容器を縦型にすると、流速が上がりました。

水面が降下する速度が大きくなったことが影響していると考えられます。

 

実験3 水を横に出す、ノズルあり、広口容器。

実測流速/理論流速=99.45%

 

ノズルがついていると、理論値とほとんど同じぐらいになるほど、速度が上がりました。

穴だけの時に比べると、オリフィス効果が少なくなった、流れがスムーズになった影響と思われます。

 

実験4 水を横に出す、ノズルあり、縦型容器。

実測流速/理論流速=114.55%

今回の実験では、2番目に流速が速くなりました。

 

理論値より速くなる原因の一つは、水面の降下速度、v1が、ゼロではない、ということです。

水面近くでのエネルギーは、高さhによるものと、速度v1によるものと考えられますが、ざっくり計算では0.4%ぐらいしか影響がないはず。

 

それ以上流速が上がっているのは、ほかにも原因があるためと考えられます。

 

実験5 水を下に出す、ノズルなし、広口容器。

実測流速/理論流速=70.10%

 

今回の実験で、最も流速が小さくなりました。

 

実験6 水を下に出す、ノズルなし、縦型容器。

実測流速/理論流速=80.98%

 

実験7 水を下に出す、ノズルあり、広口容器。

実測流速/理論流速=93.66%

 

実験8 水を下に出す、ノズルあり、縦型容器。

実測流速/理論流速=127.14%

 

今回の実験で、最大流速になりました。

 

まとめ

 

流体の設計では、理論値を十分参照しながら、実験と理論値との比較をすることが重要。

 

理論、実験をそれぞれ50%の時間をかけると、理論式では表せていない、流体の実際の動きが分かってきます。

 

この作業を繰り返すことで、流体の理解が、さらに深まることでしょう。