誤解が多いトリガー式霧吹きで霧が出る原理
よく言われているのが、
A高速空気説
「ノズルの中を高速で空気が通過し、液体を引きちぎって細かい霧になる。」
そういう噴霧装置もあるのだが、全部がそうではない。
ノズルに空気が通らないものでも、霧が出ることを説明できない。
写真のトリガー式霧吹きのノズルには、空気が通る穴はない。
Bベンチュリー効果説
「ベンチュリー効果で水を吸い上げて、霧になる」
上記、トリガー式霧吹きは、ポンプで水を吸い上げているので、ベンチュリー説では説明できない。
ベンチュリー効果で水を吸い上げているのか、実験しました。
C渦室説1
「渦室があり、渦室の接線方向に水が流れ、高速回転を始める。遠心力で水が渦室の周囲に押し付けられる。中心部は、圧力が下がり空洞になる。出口では、円錐状に広がり、その後霧状になる。」
実際に上のトリガー式霧吹きには、渦室がある。では、この説はすべてを説明しているのか?
D渦室説2
「渦室説に加え、さらに噴き出した水は回転を続け、自らの遠心力で引きちぎられて霧状になる。」
霧吹きにぐるぐる溝、渦室(swirl chamber)がありますが、霧吹きを出た後の水が、ぐるぐる回って、遠心力で広がっているわけではないことを説明しました。
今回は、C,説、D説について、本当にそうなのか、調べてみました。
渦室が有っても無くても霧状になる
噴霧した水はぐるぐる回転していない。
では渦室はいらないのか、というと、あったほうが水滴は広がりやすい。
ここで説明していること。
・トリガー式霧吹きのノズル構成
・ぐるぐる溝で回転した水が遠心力で広がる説
・回転する液体が飛び出した場合、回転はせず、慣性運動をする
・渦室のぐるぐる溝はなくても霧は発生するのか
・渦室のぐるぐる溝の有無と、オリフィス穴径の影響調査
・霧状の広がりには、何が寄与しているのか
・想定される原理、霧吹きで霧状に水滴が広がるのは、圧力差による現象
・まとめ
トリガー式霧吹きのノズル構成
霧吹きは、流体が圧力の高いところから、低いところへ移動する現象を利用している
渦室の効果、オリフィス(ノズルの吐出穴)の径の効果
トリガー式の霧吹き、ノズルの構成

今回説明するトリガー式霧吹きの全体構成

ノズル部分の拡大

キャップ(オリフィス)を外す。キャップには穴が開いている。

ノズルの内側。ステム(中子)が見えて、表面に渦室が構成されている。
トリガーを引くと
水は渦室に入って、そのあと、
キャップ(オリフィス)から出ていき、
霧状に広がる。

渦室、オリフィス(キャップの穴)の寸法
ぐるぐる溝で回転した水が遠心力で広がる説
およそ次のような説明がされている。
特許文献や、AIでも同様の説明がされているが、数カ所、正しくない。
1. 液体がステム(中子)に構成された渦室に入る
トリガーを引くと、圧力で液体が渦室に入る
2. 渦室へ流入し、高速回転する
(正しくない)

3. ノズルから出た液体は回転を続けて、遠心力で広がる。
(正しくない)




こんな感じで、噴霧した液体がぐるぐる回るのか?
残念ながらそうならない。

噴霧が始まった瞬間。上から見たところ。
噴霧口に針を通した糸を垂らしている。
もし、液体が回転して進むなら、針は図の右方向に飛ばされるはず。


実際は、図の下方向、ノズルからまっすぐの方向に針が飛ばされる。

回転する液体が飛び出した場合、回転はせず、慣性運動をする
放した瞬間から、等速運動をする。方向を変えない。
落下の場合は、自由落下する。
回転しながら進むことはない。
二つの水風船を回転させ、遠心力で風船同士が離れた場合の運動。
時計回りに回転中。
ここで、水風船が回転軸から外れる。
もし液体が回転を続けるなら、時計回りに回転をしながら落下するはず。
実際には、離れた時の円周方向にまっすぐ飛んでいく。
そのまま自由落下する。
5枚の写真を合成したところ。
接線方向には等速運動、垂直方向には自由落下する。
放した水風船は、重力以外の外力を受けない。
円の中心方向に働く向心力が生じないため、回転しない。
つまり、水風船は、回転軸から離れた後は、ぐるぐる回転しながら進むことはなかった。
渦室のぐるぐる溝はなくても霧は発生するのか
左がもとの渦室。時計方向に回転するように溝が切られている。
右は、改造した渦室。
溝を平らに削って、まっすぐオリフィスの穴に向かうように改造した。
もし渦室による液体の回転によって霧になるのであれば、
・回転するように溝を切った左側は霧状になって、
・回転しない溝を切った右側は霧状にならないはず。
渦室のぐるぐる溝の有無と、オリフィス穴径の影響調査
渦室のぐるぐる溝が、霧状に広がる必須条件か、調べてみた。
結果、ぐるぐる溝があるほうが、霧状に広がりやすいが、ぐるぐる溝は必須ではない。
・ぐるぐる溝が無くても霧状に広がる。
・ぐるぐる溝が有っても、霧状に広がらない場合もある。
実験1 渦室にぐるぐる溝がある。霧状になる。
実験2 渦室にぐるぐる溝がない。
それでも霧状になる。
広がりは半分ぐらいに小さくなる。
次に、キャップの穴(オリフィス)を広げて実験した。
左側が、初期の穴。直径0.6mm
右側が、改造した穴。直径1.2mm
渦室のぐるぐる溝によって霧状になるのなら、
ぐるぐる溝さえあれば、キャップの穴が大きくなっても霧状になるはず。
実験3 キャップ穴1.2mm、渦室にぐるぐる溝がある。
霧状には広がらず、まっすぐ水が出る。
渦室にぐるぐる溝が有るからといって、霧状に広がるとは言えない。
実験4 キャップ穴1.2mm。渦室にぐるぐる溝がない。
ほとんど広がらず、まっすぐ水が出る。
実験の組み合わせと、広がり具合を測定した結果は次のようになった。
ぐるぐる溝有無よりも、吐出口直径の差の影響が大きいようだ。
それぞれの主効果を比較する。
霧状の広がりには、何が寄与しているのか
結果を整理すると、
・吐出口の面積が狭いほど、広がりそうだ
・平均吐出量が多いほど、広がりそうだ
・噴霧時間が長いほど、広がりそうだ
それ以外は、影響がはっきりしない、という結果になった。
実験の条件、
渦室にぐるぐる溝が有るかないか、
ノズルの吐出口(オリフィス)の直径の影響、
そのほか、次の内容を測定した。
①広がり
霧状に広がった寸法。吐出口から20mm離れたところで、真横から見て、何mm広がったかを測定した。
②平均吐出量
10回、トリガーを引き、試験前後で、容器の水が減った量を測定し、10で割った。
トリガーを1回引くごとに吐出される水の量。
③噴霧時間
トリガーを引き、噴霧が始まってから、噴霧が終わるまでの時間を測定した。
計算値
④流量=②/③
1秒当たり噴霧される体積。
⑤出口流速=④/吐出口の面積
⑤圧力
ベルヌーイの定理で計算したオリフィス手前(渦室)の圧力。
⑥絞り部速度=④/ぐるぐる溝の断面積(2か所分)
⑦出口/絞り部速度比=⑤/⑥
それぞれの実測値、計算値と、広がりの関係
ぐるぐる溝と広がり
明確な相関があるとはいえない
穴面積と広がり
穴面積が狭いほど、広がりそうだ
平均吐出量と広がり
吐出量が多いと、広がりそうだ
噴霧時間と広がり。
噴霧時間が長いほど、広がりそうだ。
流量と広がり
明確な相関があるとは言えない。
出口流速と広がり
明確な相関があるとは言えない。
圧力と広がり
明確な相関があるとは言えない。
出口/絞り部流速比と広がり。
明確な相関があるとは言えない。
想定される原理、霧吹きで霧状に水滴が広がるのは、圧力差による現象
渦室のぐるぐる溝によって、速度を持った流れが、オリフィスを通る時、速度が増えた分、粘性による力が増え、
「液体が出にくくなった」ことが、原因の一つと想定される。
ただし、検証ができたわけではない。
液体が出にくくなると、噴霧が広がりやすい。
実験をすると、噴霧が広がるときほど、トリガーを引く力が強く感じられる。
それに対し、噴霧が広がらない時は、「スカ」っと引くように感じられる。
オリフィスを通りにくいということは、粘性力によってオリフィスが実質的に(計算値以上に)細くなったのではないか、と想定される。
渦室に流れる流体。
渦室内でぐるぐる高速回転はせず、溝の絞り部で速度を得て、オリフィスへ向かうと想定される。
絞り部の流速、7.4m/sに対し、吐出部の流速 22.9m/sは、3倍も大きい。
これは、渦室でぐるぐる回転するよりも、主にオリフィスに向かって流れているだろう、と推察できる。
絞り部流速 7.4m/s と、吐出部流速 22.9m/s
これらが、直交していると仮定すると、
流速は、√(7.4^2+22.9^2)=24.1 m/s
と、ぐるぐる溝が無い場合より、5%ほど流速が増えたことになる。
その分、粘性力を大きく受けると推定できる。
噴霧する場合は、オリフィス出口が一番圧力が高く、その直後、大気圧に下がる。
極端に書くと、下図のように、オリフィス出口中心から、放射状に速度を得る(Vp)。
オリフィスを通る流れは、渦室から吐出口に向かって流れるのだから、その方向に速度を得る(Vv)。
噴霧する速度Vは、Vp+Vvの合成であると想定できる。
吐出口方向に向かう速度Vvに比べ、圧力差をより大きく取れれば、Vpが大きくなり、噴霧は広がりやすい。
このような原理で霧状に広がっていると想定できる。
ほかの可能性として、渦室の絞り部の速度が、そのままオリフィス吐出口まで影響していると考える場合、
オリフィスの一方の端、図の上では、時計方向の速度と、吐出口を通過する速度の合計速度が、やや時計回り方向に向く。
オリフィスの他方の端、図の下では、同様に、やや手前側に傾いた方向に向く。
同様にオリフィス全周にわたって、時計回りに偏った流れが生じる。
こういう考え方もありそうだが、実験2で行った、ぐるぐる溝が無い場合に、噴霧が広がることを説明できないため、
この可能性は低い、または、補助的ではないかと想定される。
まとめ
今回の実験、計算では、トリガー式霧吹きで、霧状に噴霧される流れを、実験と計算でまとめてみました。
噴霧のメカニズムを正確に測定するのは容易ではありませんが、
一般に言われているような渦室の働き、遠心力で水が飛んでいくということではなさそうだ、といえると思います。