2013年7月、公募ガイド「第17回小説の虎の穴」で佳作をいただいた虹記念品は図書カード500円ピンク薔薇

文学賞にいろいろ出してた頃ふと見つけたページで知った。なんと審査員が清水義範様、締め切りが明日!もう夕方になるのに!ガーンとにかく読んでもらえればそれだけでいい、私という人間がいることを知ってほしい!の一心で並々ならぬ集中力を発揮して書き上げ、直しまた直し、深夜に清書した。翌朝、郵便局に出してもらいたい…といとこに頼んで託して仕事に向かった。出した中で賞をもらえたのはこれだけだった。しかし芥川賞より直木賞より、ただの1ファンが書いたものを清水義範様が読んだ上に選んでくださったことが嬉しくて嬉しくて…「認められた!」と涙ぐんで脱力した照れラブラブ


 

 


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『ツインソウル』 実南宝じゅせ

ある日の夜のこと。会社からやっと帰ってきた俺は、ぐったりしたまま食卓のテーブルについた。この2週間、きちんと休めた日は1日もなかった。午前7時から午後11時までのとんでもない激務のなか、どうにか倒れずに納期に間に合わせることができた。ようやく開放されて、必死で帰ってきたのに……花柄のクロスのテーブルには、卵たっぷりのカルボナーラとアスパラガスのサラダ。にんにくの黒焼きまであった。消化に時間がかかりそうな、精をつけろというメニューだった。
「おつかれさま、ゆうちゃん。いっぱいあるからどんどん食べてね」まながかわいらしい笑顔で隣の椅子に座った。甘えるようにヒラヒラ揺れるフリルのワンピースが、なんだか妙に気に障った。「ね、ゆうちゃん。今夜はゆっくりしよ」アスパラガスを噛む耳元で、まなは囁いた。「ごめん、疲れてるんだ。昨日も一昨日も風呂入ってないしさ」「ええー、きったなーい! じゃあ、今日は特別にお背中流しますよ」まなはキャハッと笑って俺の肩に頭を乗せた。「だから、疲れてるんだって! こんなに食えないし!」 何もかも面倒でまなの頭を向こうへ押しやると、苛立った声が出てしまった。びっくりしたまなの目からぽろぽろ涙の粒がこぼれた。「ゆうちゃん……ひどいよ。元気になってもらいたくて作ったのに! いいもん、ゆうちゃんのバカ! 信じらんない!」まなは興奮して裸足のまま外へ走り出し、タイムマシンに乗り込んだ。

「おい、まな!どこ行くんだよ!」「ゆうちゃんのママに結婚しないでって言うのよ!もう、この世に居てほしくない!」まなは泣き叫びながらスイッチを押した。ぶいん、と鈍い音がしてタイムマシンは消えた。「ちょ、ちょっと……やめろよ……」俺は急にゾッとして、その場に立ち尽くした。生まれないようにするということは……俺が消える?さっきのタイムマシンのように!「まな……やめてくれ、何もしないで戻ってきてくれ! 悪かったよ!」今この瞬間に消えてしまうかもしれない。俺は底知れぬ恐怖に怯えながら、半狂乱になって祈った。どのくらい経ったのか、疲れと不安と開き直りで泥の塊と化して地面に伏せていた俺の耳に、ぶいんと聞こえた。「戻ってくる時間を間違えちゃった。何時に乗ったのか、泣いてて覚えてなかったの」そう言いながらまなはタイムマシンを降りると、俺の傍にしゃがんだ。「まな……親父達の結婚とめたの?」おそるおそる聞くと、まなはううんと首を振った。「25年前に行こうとしたんだけどスイッチがよくわかんなくて、250年前に行っちゃったの。そしたらそこにもゆうちゃんがいた」

俺はよろよろ立ち上がると、まなの肩を借りて家に入った。ソファーにぐったり横たわったまま、冷えた麦茶のグラスを受け取った。「見たことない石作りの家とか建っててね。どう見ても日本じゃないし、あれ? と思ってたら馬に乗った男の人が通ったの。顔も声もそっくりで、絶対ゆうちゃんだって直感でわかった。それで話しかけたら、ゆうちゃんもびっくりしてた。ここはイタリアで俺は騎士の隊長だって教えてくれて、大きな馬小屋を見せてくれたの。馬の頭って気持ちいいね」まなはいつものように笑った。心底ホッととした拍子に、罪悪感がすぽっと抜け落ちた。

「500年前にも行ってみたの。スイスの山あいの村で、ゆうちゃんはお家の壁を塗ってた。18歳から大工してるって言って、お家の中を見せてくれたの。すごくすてきだった」俺はやっと起き上がる力が湧いてきて、テーブルにつくと温め直されたカルボナーラをゆるゆる口に運んだ。「もっと昔にもいるかなと思って、1000年前まで行ったの。崖の上に誰かいると思ったらゆうちゃんだった。天文学者で、新しい星を探してた。他の人より早く発見して自分の名前をつけたいって。すごく長い名前で……忘れちゃった。メモしておけばよかったな」

楽しそうなまなを見ていると、さっきまでの感情がすべて嘘のように思えた。話しながら時々にこっとする癖がかわいくて好きだ。「いつの時代もゆうちゃんがんばってた。まながわかってなかったの、ごめんね。やっぱり今のゆうちゃんが一番いい!」「俺こそごめん。話もしないで寂しくさせて」俺は隣にいるまなをそっと抱き寄せた。ふわっとカールさせた細い髪をかきあげて、柔らかい首筋にキスしようとした。するとそこに、赤いあざが一つあった。「まな……これ、何?」「えっ?」鏡を覗いたまなは安心したように笑った。「ゆうちゃんがやったでしょ!騎士の時に」

**終わり**