「ずいぶん青いガラスだな…うーん…接着剤はついてる。虫がいるなら点々と剥がれたりしてるはず。押し出すほどの力があるなら間違いなく塔の表面にたくさん虫がついてる…それか一緒に落ちて干からびてる。いなきゃおかしい、これだけ落ちてんだから。こんなにつるつるってことは虫の仕業じゃない」
ワイルが表に裏にひっくり返して叩いたりしているうちに向こう側からカラン、カランとまた固い音が何個分か響いてきました。
「もっと違う原因…塔そのものか接着剤が夏の暑さで膨れてきて、押されて剥がれた?」
「それはありそう。20年経ってるなら塔自体も劣化するわ、きっと」
レインは柵から身を乗り出してタイルの剥がれたところを触ってみました。
「上の方から落ちてきてるの。普通、貼るのって下からだから剥がれるのも下からだよね…冬の寒さが効いてもっと剥がれたか」
レインは足元に落ちているおびただしい数のタイルから形のいいひとつを拾い上げました。
ワイルもしゃがみこんで、いくつかひっくり返しながらうなりました。
「そうかもな…ところでコーヒー飲まないか?」
ワイルは長い指でタイルをひとつつまむと日に透かしながらつぶやきました。
「…はあ…なんで今?」
「喉乾いてきた。さっき通り過ぎて雰囲気違うからわかんなかったけどよく考えたらあそこ、そのままカフェだったな」