蒸し暑い初夏の朝、スフノは百貨店の化粧品カウンターへ向かいました。
「お暑うございます」
「あら!いらっしゃいませ」
ナササがにっこりして顔を上げた拍子に翻訳イヤホンがキラッと光りました。
「気分転換に来たの。夏っぽくてきれいな物があればほしいな」
「あら、もう持ってるじゃないの。最高にきれいな瞳を!これ試してみて」
ナササは自信ありげにほほえんで、上品に輝くシベト色のアイシャドウをスッと差し出しました。
「ありがとう…きれいな瞳かなあ?」
スフノが内心照れながらつけてみると、両方のまぶたがいつもよりぱっちり開いた感覚になりました。
「結構光るね。艶が出るっていうか…ん?何か見えるんだけど」
スフノは丸い鏡の縁にさっきまでなかった黒い点々が見えるのに気づきました。
 「2,000って書いてある?」
「ふふふ…それね、物の原価が見えるアイシャドウ。昨日の朝20,000ピルスで買った指輪が『8,000』って見えて、ショックですぐ返しちゃった。商売ってそういうものだから仕方ないけどさ」
ナササは呆れたように笑いました。
スフノがカウンターに視線を移すと口紅のひとつひとつに『3,000』と書いてありました。
(原価が3,000…一本4,000ピルスだもんね)
感心しながら周りを見回してみると、ちょうど通り過ぎた女性のシャツに『10,000』、膝丈のスカートには『550』と小さく出ました。