うん、なんかね。
嫌な予感はしたのよ。
まーくんの張り切り具合にさ。
一抹の不安?感じはした。
でもさ。

「誕生日に作ってくれた料理のお礼したいし
たまには俺も腕を振るうよ!」

なんてにこにこしながら言われたら嬉しいじゃない。
ちょっと、いや、かなり。ときめいちゃうよね。

「ちゃんと親父に習ったんだ!」

そう言って出された山盛りの餃子。
父ちゃんも母ちゃんも弟くんも。もちろん俺も。
キレイに包まれた。いや、握られた湯気立つ美味しそうな餃子見て
その完成度に「すごいじゃん!」って全員目をキラキラさせた。

いっせいにお箸で餃子をつまみタレをつけ口に運ぶ。
無言。のち、悲鳴。

「まっずぅぅぅぅうーーーーー!!!兄ちゃん!なにこれ!?」
「ちょ、、ちょこ!?」
「ま、まさき!!おまっ!!、」
「あ!にのくん無理すんな!!」

せっかく作ってくれたし吐き出すこともできなくて
ごくん、って無理に飲み込んだ俺に弟くんが水をくれた。
チョコと餃子のタレは危険だ。これはヤバイなんてもんじゃない。
ゴクゴク水を飲んで今度はタレをつけずに恐る恐る食べてみた。

「…あまい。」

食べれない事はないけど甘い。甘すぎる。
まずくはないんだ。美味しいの。
でも、あっためられた全力のチョコレートの甘さって
これでもかって強さで。

それでも水を飲みながらチョコ餃子をくちに運ぶ俺。
我ながら健気だと思う。
でも、まーくんはきっと俺が喜ぶって信じて作ってくれたんだもん。

「にのくん、まじで無理すんなよ。」
「そうよ!?雅紀!あんたって子は!!」
「これは餃子への冒涜だ!!!」

弟くんにすねを蹴られ母ちゃんに尻をつねられ
父ちゃんにげんこつを貰って、まーくんは半泣き。

「ごめんな?かず。俺ぜってー美味しいと思ったんだよ。
今日バレンタインだしサプライズも面白いかなって。」

「バカか!!ちゃんと味見しろ!!」
「そうだ、そうだ!!」

父ちゃんと弟くんがさらにまーくんをボッコボコにするから
慌てて俺と母ちゃんで止めた。なんちゅうバレンタインだ。

「ごめんね、にのくん。これ食べて口直しして?」

そう言って母ちゃんがカワイイ袋をくれた。
開けたら中身は手作りチョコマフィン。

「ふわふわ!美味しい!!」

良かった!って嬉しそうに笑う母ちゃん。

「にのくん!コレも食べてみな!」

そう言って父ちゃんに渡されたのは白玉にチョコが入ってた。

「うわあ。すごーい。美味しい!」

菓子だって作れるんだぜ!って鼻をこする父ちゃん。

「にのくん!これも食べてよ!」

弟くんに渡されたのはゲームキャラの付いた缶に入ったチョコクッキー。

「わ!これ、俺の好きなキャラ!」

でしょでしょ、って自慢げな弟くん。
俺が喜ぶたびに、まーくんがどんどん小さくなっていく。

「ごめんね?かず。ほんと俺、、、ごめんね、ごめんね。」
「いいって!気持ちは嬉しいし!これも不味くはないんだよ?ね?」
「でもぉー。」

本気で泣いちゃいそうな顔がちょっとカワイイだなんて意地悪かな。
あー、もう仕方ないな。
ちょっと迷ってたけど自分のカバンをぐっと掴む。

「まーくん。ちょっと来て?」
「え、なに?」

不安そうな顔しておとなしく俺についてくる。
まーくんの部屋に入ってカバンから取り出した箱をハイって渡した。

「え?ポッキー?もしかしてバレンタイン?」
「一応。ごめん。こんなんで。」

ポッキーだなんて少しも色気ない。しかもラッピングさえしていない。
だって、いかにもバレンタイン!なラッピングされた
チョコ買う勇気なんかなかったんだもん。
これが俺の精一杯だ。

「ありがと。嬉しい。」

にこーっと本気で嬉しそうな笑顔にほっとする。
良かった、渡して。
こんなんだからさ、本当に迷ったんだよね。渡すの。
すごい恥ずかしくって仕方ないんだもん。

「ね、ね。かず。一緒に食べよう?CMでもシェアってゆってたじゃん?」
「あ、うん。…て、え???」

まーくんってば片方を自分で咥えて「んーーー!」って俺に
もう片方を差し出してくる。
え、これかじれって言うの!?うそでしょ?
だって、これって最後ちゅーしちゃうやつじゃん。

「な!ば、、ばかなの!?そ、そんなのするわけないじゃん!」
「え?しないの?中高生の恋人はこうすんの常識だよ?」
「そうなの?」

つい最近まで友達なんていなかった俺が中高生の常識なんてのを知るわけがない。
そういうもんなのかな、って疑問には思ったけど
早く早くって急かされておずおずと、まーくんが咥えてる反対側を咥える。
う、、予想以上にまーくんの顔が近いよ。
これ、めちゃめちゃ恥ずかしいよぉ。
恐る恐る食べ進めていく俺。
すごい勢いで近づいてくるまーくん。

「ひゃあ!」

ついクチからこぼしちゃって「だめでしょ。」そう言われて
もういっかいね、って。
今度は絶対離しちゃダメだからねって。

ねえ、これ本当に常識?

まだチラつく疑問とポッキーごと俺はパクリ、食べられちゃった。
チョコのついた唇や舌をペロペロ舐められるし
軸の部分はパサパサするし。
なんか微妙だけど、まーくんが満足そうだから。まあ…いっか。

中高生の常識については翔ちゃんに聞いてみよっと。
そう心に決めた俺とまーくんの初めてのバレンタインだった。