山奥に佇む大きな建物。
この建物は、15年前までは研究室として利用されていた。
更に10年前までは病院として使用されていた。
病院としてこの建物が活躍していた時代は、何せ場所が山奥なも
のだからあまり大盛況とは言えない業績だった。
その為、とある大学の教授から院長夫妻のみならず従業員全員が一生生活に困らないくらいの金額を提示され
たときには、この土地がそれほどまでに価値を持っているのかと訝ったものだが、このように美味しい話が幾つも
あるものか、と快諾した。
と、言うような話を彼女は勿論知らない。
25年前も前となると、彼女はまだ赤ん坊だっただろう。生まれていなかったかもしれない。
この建物の前で彼女は車を止めた。
後部座席からバッグを取り、キーをスカートのポケットに滑り込ませると、建物に向かって歩いた。
この土地は研究所としては最適の場所であった。
廃病院を買い取った教授は獣医学の研究者だったため、中心部にある大学の敷地では深夜や早朝の研究が
できない。
存分に昼夜関係なく動物実験を行うには、人気のない山の中はうってつけと言うことだった。
--第三研究室--
彼女は先ほど車のキーを入れたポケットとは逆の方を探る。
ストラップの類が一切付いていない鍵を、ノブに付いた鍵穴に差し込む。
ガチャリ。錠が外れ、扉が開く。
ロッカーから白衣を取り出して、着衣。
流れるような動作で長い髪を束ねる。
研究室の中はいたってシンプル。
向かい合った机が2つ、部屋の中心に並んでいる。
机上にはデスクトップのパソコンがそれぞれ乗っていて、左は白、右は黒と対象的だ。
彼女は、白いパソコンが乗った方の机の上から小さなホイッスルを手に取ると、
すう、と息を吸い込み、思い切り鳴らした。
数十個の扉が開く音が上の階から聞こえる。部屋の隅にある階段を駆け下る足音は一人二人のものではない。
「せんせーおはよ!!」
「おはようございます、先生」
「今日は早いね。珍しい。どうしたの?」
先生と呼ばれる、彼女の名前は鹿野百合子。
