8
二十世紀初頭、ドイツに優れたヴァンパイア・ハンターがいた。ヨーゼフ・ゲーリング、ミュンヘン大学教授。
ゲーリング家は、代々医学や科学を研究する学者の血筋であり、ヨーゼフで8代目となる。その知識等の財産は莫大であり、超人的非日常的な手法を数々会得していながら、それらを用いて人外の魔物として永らえることを決して選ばず、あくまで真っ当な人間として親から子、子から孫へと命を繋いできた。
今回、ヨーゼフがターゲットに定めたのは、「継ぎ接ぎだらけの吸血鬼・ラジル」だった。デムヌーヤとは別種の、地球古来より存在する“正統派”とも言うべき、人の生き血を吸う本来の意味での吸血鬼だ。
「継ぎ接ぎだらけ」というのがどういう意味か、と問われれば、読んで字の如くだと答えるしかないだろう。他の吸血鬼により作られた──血を吸われて吸血鬼化したのではなく、肉体の部品を繋ぎ合わせた後に吸血鬼の生命力を吹き込まれた──余興で生み出された存在だった。
具体的にどのように部品が繋ぎ合わされたか、詳細は以下の通りである。
左目はキツネの眼球
右耳は女のもの
左腕は左利きの別人のもの
皮膚移植:臀部、左右腿裏、右膝下
左足義足
『魔術師』の異名を欲しいままにするゲーリング教授は、もうほとんど超能力と言って差し支えないほどの失せ物探し物の感性と技法、格闘技の才能、様々な道具や武器を開発する知識と技術、等々……を持ち合わせていた。それら己の持てる全てを駆使して執拗にラジルを追い続けた。
しかし、ラジルの悪運の強さも並大抵の代物ではなかった。後一歩で殲滅という所まで肉薄しておきながらゲーリングはラジルを取り逃がしてしまった。
危うく命を落としかけて、心身に多大な痛手を蒙ったラジルは、かろうじてミュンヘンを離脱することに成功し、その後何年もの間、恐怖に怯えながらの逃避行が続いた。いつまたゲーリングが追い付いて襲い掛かって来るかと、びくびくしながらこそこそと逃げ隠れしていた。
だが、一向にゲーリングは姿を見せない。
どれほどの時が経ったろう。ラジルはふと不審を覚え、ゲーリング邸へ侵入した。敷地全てに魔除けこそ施されてはいたものの、それらは全く以ってお粗末な代物であり、突破するのはさほど困難ではなかった。
程なくして見つけ出した寝室のベッドに横たわるゲーリングは、老いと病で見る影もなく萎れていた。これがあの恐ろしき『魔術師』、ヨーゼフ・ゲーリングの成れの果てか……。
「そうだ! 人間というのは年を取るものなのであった! すっかり忘れていた!」
ラジルは小躍りしてゲーリングの喉笛に牙を突き立てた。ヴァンパイア・ハンターにとって、自分が吸血鬼にされてしまうこと、即ち自分が狩られる対象に堕ちてしまうこと以上の屈辱はないはずだ。怨み骨髄に徹するにっくきゲーリングに最大の辱めと苦悩を堪能させてくれる──!
もはや何の憂いもなくなったラジルは、速やかにゲーリング邸を後にして闇の中に消えた。
9
翌朝、息子のフランツが父親の遺体を発見した。子供の頃から父の助手を務めてきたフランツは、遺体が吸血鬼として甦らないように処置を施した上で埋葬した。
「九代目……だったかな、フランツ?」
葬儀に出席したハンター仲間の一人が小声で耳打ちした。
「今日から君が『魔術師』、というわけだな、ゲーリング教授」
フランツは言葉が出なかった。その称号の重みがずしりと胸に圧し掛かったからだ。しかし、それでも彼は活動を開始した。『継ぎ接ぎだらけ』の吸血鬼・ラジルの居場所を探ると同時に、自分の助手を探し求めた。助手の方は運良くすぐに見つかった。
中崎貴士。かつての父・ヨーゼフと同様にフランツ自身も教授を務めるミュンヘン大学のサマーコースに参加している日本人の学生だ。実を言うとフランツは、数日前に大学の構内で初めて擦れ違った時から目を付けていた。一瞥しただけで霊的素質を感じ取ることができるほどの逸材だ。
──見つけたぞ! 私の『魔術師の弟子』を!
やや興奮気味にフランツは中崎貴士に話し掛け、彼を自分の研究室に連れて行った。そこなら他人の耳を気にする必要もない。
「ヴァイパイア……ハンター……ですか……?」
貴士は全く正常な反応を示した。いかにも胡散臭げな……いや、それでいいのだ。いきなり食いついて来られても、アブナイ奴ではこちらも困る。ゲーリング教授は冷房の効いた快適な部屋でじっくりと説明し、彼を助手にしたいという希望を伝えた。
「わかりました。お話の真偽についてはともかく、取り敢えずお手伝いしますよ」
貴士は、日本語訛りはあるが流暢なドイツ語で承諾した。
「父親と同じ道……ですか」
ゲーリング邸に向かう車の助手席で貴士は感慨深げに呟いた。
「僕は日本の医大に在学中なんですが、将来は実家の内科医院を継ぐつもりです」
「お父さんに反抗とかはしなかったのかね?」
「医者になることに疑問を感じたことはありません。親子揃って特殊能力の持ち主なんですよ、医療系の。父は患者の身体の悪い所を霊視できるんです。僕は治癒能力、ヒーリング・パワー。だから医者は自分の天職だと思っています」
貴士はふっと笑った。
「教授は反抗とか、なさったのですか?」
「いや、私も反抗はしていない。子供の頃からずっと父の手伝いをしながらハンターとしてのイロハを叩き込まれた。私も父の後を継ぐことに何の疑問も感じなかった。ただ……家柄の重みは常に感じていた。ゲーリング家は代々優秀なヴァンパイア・ハンターを輩出してきて、いつしか同業者の間では『魔術師』なんぞという通り名で知られるようになってしまってね……父も独り立ちしたての頃には随分と重圧に悩まされたそうだよ」
「どこの家にも似たようなことはあるんですね……」
実際、中崎貴士は『魔術師の弟子』と呼ぶに相応しい、素晴らしい助手だった。ゲーリング邸に到着するや否や、ハンターの装備や設備が隠してある地下室へ向かい、「継ぎ接ぎだらけの吸血鬼・ラジル」の行方を探るべく振り子によるダウジングを行ったところ、いつにも増して反応が良い。側に貴士がいるせいだと気付いた教授は、「いっそ君がやってみろ」と振り子を渡した。結果、二人は瞬く間にラジルの潜伏場所を突き止めて拘束することに成功したのだ。
吸血鬼は、太陽の光のみならず、『霊的な光』によってもその身を焼かれる。『魔術師』師弟が放つ強い霊力は、ラジルの肌をじりじりと焦がして爛れさせた。
「最初から気になっていた。その左目の周り、化膿してるんじゃないか? どれ、診せてみろ」
貴士は、『魔術師』とその弟子二人の『霊的光』に縛られて身動きもできないラジルの顔に手を伸ばした。
「うぎゃあああああああああああっ!」
ラジルは絶叫した。医学生の貴士は、診察の真似事をしようと意識しただけでヒーリング・パワーが発動してしまうのだ。ヒーリング・パワーもまた『霊的光』の一種であり、その照射を受けて吸血鬼の爛れが一層酷くなってしまった。
「おいおい、普通ヒーリング・パワーを注入するとみんな喜んでくれるんだがな。お前は本当に人間じゃないんだな。人に非ざる怪物なんだな」
貴士は呆れたように眉を顰めた。
「ならば同情は要らないな」
二人は吸血鬼の心臓に杭を打ち込んだ。
10
続いてゲーリングと貴士は、ラジルを作り出した吸血鬼、『下の牙・ペネルパ・グウィルカ』──別名『女吸血鬼ペニ』を追跡してこれを打倒した。女吸血鬼ペニは下の牙を獲物と定めた人間の喉に突き立てて血を吸うという変り種で、そのため受け口で下顎が突き出ているのが特徴だ。決して弱い相手ではなかったが、師弟の連係は絶妙であり、結局さしたる危険もなく任務を完了することができた。
僅か二週間足らずで二匹の吸血鬼を退治したことが、ハンター仲間の間で評判になった。「さすがは『魔術師』ゲーリング教授だ」、と。
しかし、当のフランツ・ゲーリング教授は内心忸怩たる思いを拭い去ることができなかった。助手である中崎貴士の功績が非常に大きかったからだ。自分一人だったら、もしくは別の助手を雇っていたら、これほどの成果は上げられなかったことだろう。『魔術師』の異名に恥じない働きは紛れもなく貴士のお蔭だったのだ。
ミュンヘン大学のサマーコースが間もなく終了する。そうすれば貴士は日本へ帰ってしまう。新しい助手を探さなくてはならない。おそらく貴士ほど有能な人材を見出すことは不可能だろう。だが、贅沢は言っていられない。その分、己自身がしっかりしていればいいのだから。弟子に依存していて何が『魔術師』か。
とは言え、あと数日の滞在期間中も貴士はきっちりと役目を果たしてくれた。振り子によって次なる標的の探索を根気良く繰り返している。
「うっ? なんだ、この物凄い反応はっ?」
鎖で繋いだ振り子が千切れて飛びそうな勢いで回り出して、貴士は戸惑いがちに叫んだ。
「近いな! あるいは大物か?」
ゲーリング教授は素早く身支度を整えた。屋敷を出た後も幾度か立ち止まって振り子の反応を確認する。ごちゃごちゃとした夜の歓楽街の、どこともわからぬ裏通りへ進んでいく。目立たない外装のバーに入った貴士の視線は、カウンターに座る金髪の若い女に釘付けになった。薄暗い店内で振り返った女は、ぎごちなく椅子から立って、貴士を凝視した。立ち尽くしたまま身じろぎもせずに見つめ合う二人。
「驚いたね」
教授は苦笑した。
「まさか振り子が恋の取り持ちをするとは……」
貴士の肩をぽんと叩いて歩き出す。
「邪魔者は消えるとするか」
貴士は返事すら忘れていた。痛いほどに高鳴る胸の鼓動を持て余しながら、女に近付いて名乗った。
「僕の名はタカシ・ナカザキ……君の名前を教えてもらっていいかな……?」
「わたしの名前は、コンスタンツェ・ヴィトリヒよ」
11
只ならぬ吸引力が二人を結び付けた。バーに近い安ホテルのベッドの上、激しく求め合い、男と女の営みを繰り返した後、コンスタンツェ──コニーと呼んで、と彼女は言った──コニーの豊かな胸の谷間に顔を埋めて貴士は吐息を漏らした。
「ああ……とても素晴らしかった……ありがとう、ごちそうさま……」
「なに、それっ?」
コニーは思わず吹き出した。
「まるでスケベオヤジみたいなセリフね」
「男はみんなスケベさ。オッサンも若者も関係ない。そして、男にとって女性の身体は栄養そのものなんだ」
「栄養?」
「そう……君の身体は栄養満点で、どんなグルメも唸らせる五つ星の、極上の御馳走だ。……それじゃあ僕からも、美味しいお持て成しをしてくれた君にささやかなお礼を……」
そう言って貴士は彼女の乳房を愛撫した。
「ああ……いい気持ち……」
コニーはうっとりと細いうなじを反らせた。
「不思議な感じ……こんなの初めてよ。癒しのエネルギーが流れ込んでくるわ……」
「ヒーリング・パワーだよ……でも君はえらい勢いで吸い取ってくれるな……まるでヴァンパイアみたいだ……ってのは冗談だけどね」
「あ……だめ!」
コニーは急にたじろいで貴士の両手を払い除けた。
「ん? どうした?」
気を悪くした様子もなく怪訝そうな貴士。
「駄目なの……それ、冗談でも何でもなく、わたし……ヴァンパイアだから……」
コニーは彼から距離を取ってシーツを体に巻きつけた。後ろめたそうに目を伏せる。
「何言ってんだよ、コニー。君は吸血鬼なんかじゃないじゃないか」
「いいえ……わたしはヴァンパイアで……そして魔女よ……」
「魔女?」
「そうよ。ヴィトリヒ一族は魔女の一族なの。そして、族長と、その娘はヴァンパイアでもあるの。血ではなく、生命エネルギーを吸収して不老不死の体を維持するヴァンパイア……」
「そんなヴァンパイアなんて、見たことも聞いたこともないぞ」
貴士は首を振った。
「僕はついこないだ、本物の吸血鬼を退治したばかりだ。僕はヴァンパイア・ハンターの助手なんだ。出任せを言っても通用しないよ」
「でも本当なの……見て」
コニーはいきなり右手の爪で左腕に切り傷を拵えた。
「あっ、何を……えっ?」
貴士は驚いて目を瞠った。見る見るうちに彼女の傷が塞がって傷跡一つない滑らかな肌が回復してしまったのだ。
「まるっきり吸血鬼の治癒力と同じだ! そんなことってあるのかっ!」
貴士は茫然と視線を彷徨わせた。
「俄かには信じ難い……そんな……そんなヴァンパイアが存在するのか……」
「ごめんね、タカシ……びっくりしたでしょ?」
コニーはどこか覚束ない幼げな面持ちになっていた。
「うん……。でも……そうか……それじゃあある意味、振り子の反応は間違いじゃなかったわけだ……」
貴士は唇をきゅっと引き結んでコニーを見つめた。
「もっと詳しく教えてくれ。どういうタイプのヴァンパイアなんだ、君たちって?」
「デムヌーヤという種族よ。人から吸い取った生命エネルギーを『ルボロム』と呼ばれる体内物質に貯め込むことで不老不死の力を得るの」
「生命エネルギーを吸われた犠牲者もヴァンパイアになるのか?」
「吸われただけではならないわ。自分の中の『ルボロム』を一部分割して、それを相手に飲み込ませることで初めて相手もデムヌーヤになるの。でも滅多に他人には『ルボロム』を与えないし……例えばわたしが子供を産めば、その子もデムヌーヤとして産まれるけれど、デムヌーヤもヴィトリヒも子供のできにくい種族だし……」
コニーは上目遣いに貴士を見た。
「あなた、ヴァンパイア・ハンターですって? わたしを退治するつもり?」
「事と次第によっては……だが、デムヌーヤなんてまるっきり初耳だ。ゲーリング教授と相談しなくては……」
「わたしのこと、嫌いになった?」
「えっ?」
明らかに貴士は動揺し始めた。
「わたし……あなたのことが好きよ、タカシ……とても大好き……心から愛してるの……あなたのためならいつでも死ねる……! ヴァンパイア・ハンターとしての役目を果たさなくてはならないのなら、躊躇わずわたしを殺して……! あなたに殺されるなら、わたし……」
彼女の瞳から涙が溢れ落ちた。
「い、いや、僕はただの助手だし、僕らの専門は人の生き血を吸う吸血鬼だし……何より……僕も……」
貴士も涙ぐんでいた。
「僕も君のことを愛している、コニー……」
「ああ……タカシ……!」
二人は泣きながらきつく抱き締め合った。
「逃げよう」
「えっ?」
「一緒に逃げよう……! 二人で……日本へ……僕の故国だ」
「そうね……日本までは追って来ないかも……」
コニーの念頭に浮かんでいたのはヴァンパイア・ハンターの存在だけではなかった。
12
「昨夜は楽しんだかね?」
その翌日、ゲーリング教授にそう声を掛けられた時には正直ドキリとした。前日、貴士と一緒に出動した際、教授はコニーを目撃していたのだから。
──探りを入れているのだろうか……?
貴士は生唾をごくりと呑み込んだが、あくまで平静な態度を貫かなくてはならなかった。
「いやあ、実はあの後あっさりフラれまして……教授が折角気を利かせてくださったのに……」
そう作り話をして頭を掻きながら、貴士は笑って見せた。
「そうか……それは残念だったな……お似合いのカップルだと思ったのだが……」
「まあ、それはいいとして……」
貴士は教授の顔色を窺いながら話題を変えた。
「ところで教授、『デムヌーヤ』というのをご存知ですか?」
「『デムヌーヤ』? ああ、聞いたことはあるが……吸血鬼の変種とかなんとか……だが、生憎詳しいことは全く知らないんだ」
「そうですか……」
どうやら教授には何も気取られてはいないようだと、現時点では判断するよりなさそうだった。
サマーコース終了まで数日の間、貴士は情報収集に努めた。知り合いのハンター仲間は必ずしも吸血鬼ばかりを相手にしているわけではない。それ以外の怪物人間や幽霊など、怪奇現象や超常現象全般を取り扱う者もいるのだ。彼らによると、『ヴィトリヒの魔女』の名を知る者はいたが、その実態は定かでないという。きっと人間社会に巧みに紛れ込んでいるのであろう、と。『デムヌーヤ』に関しては、『スペインの魔道士・アルマンド・アルテリオ・ガルシア』が有名だった。アルマンドが現れた場所には必ずミイラのように干涸びた遺体が発見されると言う噂が流れ、“狩り”の対象と看做す者もいるが、そのための知識や経験値が圧倒的に不足しているためにほとんど成果は上がっていないとのことだ。
いずれにせよ、ハンター仲間にコニー──コンスタンツェ・ヴィトリヒの存在を気取られないようにせねばと、貴士は用心に用心を重ねた。
ドイツを離れる当日、ゲーリング教授は空港まで見送りに来てくれた。時間の許す限りいろいろな話をした後で、がっちりと握手をして別れた。貴士は教授の姿が見えなくなるのを待って、周囲の人々にきょろきょろしていると思われないように注意しながらコニーの姿を探した。すると、先ほどからずっとすぐ近くにいた女性が急に貴士の腕に手を絡めてきたので驚いた。よく見たらそれがコニーだった。人目を引くほどの美人である彼女が見事に化けて、服装もごく普通で全く目立っていなかった
「うわあ、びっくりしたぁ! 完璧な変装だね、コニー。全然わからなかったよ」
小声で叫ぶ貴士に、コニーは満足そうに微笑んだ。
「当然よ。魔女ですもの」
「魔女というよりもニンジャだな」
二人は身体を寄せ合って歩き出した。
帰国後、貴士は真っ直ぐに自宅へコニーを連れて行って両親に紹介した。事前に電話していたので、両親は夕食を用意して出迎えた。
「ハジメマシテ。コンスタンツェ・ヴィトリヒです。コニーとよんでクダサイネ」
コニーはたどたどしい日本語で挨拶をした。ヴィトリヒの魔法には、短期間で外国語を習得するという便利な術もあるのだ。
「あらまあ、御丁寧に」
貴士の母・和歌子(わかこ)はにっこり微笑んだ。
「そのくらい喋れるなら日本での生活も大丈夫ね」
父・清和(きよかず)は、片言のドイツ語で何か話し掛けた後、息子に言った。
「慣れない外国暮らしだから大事にしてあげなさい」
霊視能力を持つ父ならばあるいはコニーの素性や正体にうすうす感付いたかもしれないが、勿論おくびにも出すはずがなかった。
とにかく母・和歌子が朗らかで人見知りしない優しい性格だったので、コニーはすぐに家族の一員として溶け込んでしまった。実の父親が誰かも知らず、双子の妹・クリスティアーネと一緒に彼女を産んだ母親とも疎遠だったコニーにとってはとても新鮮な体験だった。実の娘のように可愛がってくれる中崎夫妻に深く感謝し、思う存分に甘えた。