うぅぅ、さぶいなぁ〜
風が冷たすぎる
駅からの道は電車の中の暖かさとは違ってかなり極寒だった
向かい風で吹いてくる風が冷たすぎてさらに寒さを感じてしまう
こうも寒いと嫌でも思い出してしまう
恋人だった理佐を
理佐は寒さに弱かった
寒がりなクセに防寒対策に甘い所があってこっちが気にしないとすぐ風邪を引く
私はちょっとしたお節介だとしても理佐の世話を焼くのが好きだった
首元が寒そうなら巻いているマフラーを理佐に巻いてあげたり
持っていたカイロを理佐の手に握らせたりと細々世話を焼くのが好きだった
でも理佐には鬱陶しい以外の何物でも無かったと知るのは別れを告げられた時だった
恋人の特権だと思っていたそれは理佐には重くて、鬱陶しいだけだった
理佐は自由が好きだったのだ
私は世話を焼きたくて、構いたくて仕方なかったけど、理佐はそうじゃ無かった
世話も焼きすぎると段々苦痛になってしまうらしい
あれやこれやと良かれと思って言った言葉も、聞いた側には圧に感じたり、追い詰められたと感じたり、責められてると感じたりするのだと考えもしなかった
別れを告げられ、悪あがきも甚だしいくらいにすぐ受け入れられなかった私
今になるととても恥ずかしくて人にも話せない
足掻いて戻れると思った私
プライドも羞恥心すら捨てて、未練がましく悪あがき
あぁ…思い出すだけで恥ずかしい
今はさすがに未練はあっても寄りを戻そうと悪あがきする気にはなれない
私も私なりに成長しているのだ
こんな寒い日は思い出すつもりが無くても思い出してしまう
それぐらい理佐との思い出が詰まっている季節だから
寒さに耐えながら歩いて、途中のお店で暖を取りながら帰る
3件目のお店から、懐かしくも愛しい人が寒そうに歩いているのを見つける
手に息を吹きかけ歩く姿
相変わらず寒がりなのに、寒そうな格好してるな
部屋が暖かいからそのまま厚着しないで外に出て寒さを思い知って後悔して歩いてる、そんな所だろうな
寒そうに歩く姿を見て見ぬふりも出来たけと、やっぱり私の中にはまだ理佐への愛情は残ったまんまで、考えるより先に体は動いてしまう
「そんな寒そうな格好して、風邪引くよ?」
「今さら友梨奈に言われたくない」
相変わらずの憎まれ口だな
そうやってツンってされるの嫌いじゃない
「ほら、手袋」
自分がはめていた手袋を外し、理佐の気持ちそっちのけで理佐の手に手袋をはめる
「これで少しは暖かいでしょ?」
あの頃と変わらない口調で理佐に言う
きっと理佐の事だから得意家になってとか思ってるんだろうな
「頼んでないのに…」
でも外さないって事は嫌じゃないって事だね
「理佐にだけはお節介するの好きなんだよね〜」
それは本心で、理佐にしかこんな事はしない
私はやっぱり今も理佐の友梨奈でいたいんだよね
「なにそれ」
言葉と表情が噛み合ってないけど、嫌そうではないのが伝わってくる
理佐のアパートまであと少し
私が前を歩いたら少しは風避けになるかな
私は理佐の手を繋ぎ、手を引きながら歩く
「家まで風避けになるから、後ろ歩いて来てよ」
後ろでブツブツ言ってるけど離さずにいてくれるのが嬉しい
握り慣れた、つなぎ慣れた手
やっぱりしっくりくるなぁ
この瞬間だけはあの頃と同じ立場でいさせて、ほんの数分だけでいいから…
あえて何も言わずに歩いていく
今の私達には言葉はいらない
繋いだ手からちゃんと伝わりあえてる何かがあるはずだから
幸せな時間はほんの少しで終わりを告げる
これぐらいが丁度いい
「理佐、着いたよ。それじゃぁね」
それ以上の言葉も言わず、聞かずにその場をさっと去る
私達はもう恋人じゃないから
私が出来るお節介はこれくらいでいい
歩きながら手袋を回収するのを忘れた…
結構、お気に入りだったんだけどな…
理佐にプレゼントしたと割り切るか…
でも春になる頃、私の中に理佐への会いたい気持ちが募ったら、回収しに行こうかな
ただ、手袋を回収するだけ
それ以上は…期待しないでおこう
でも、もし、可能なら桜を見に誘ってみようかな?
春が来る頃に会いたさが募っていたら
おわり