昼休み、生徒会室で昼食を摂る
副会長はクラスで用事が出来たらしく、ミーティングは放課後行う事にした
お昼を食べながら今朝の事を思い出し、またイライラが込み上げる
やはり色欲に気持ちが動きそうになってはいけない
友梨奈とは関わるのはやめよう
私も周りと同じように一時の熱に浮かされただけ
あの子にとってはあれが普通なのかもしれない
放課後、生徒会での活動を終えて最後に見回りをする
まだ帰っていない生徒に下校を促し、戸締まりを確認していく
そして…体育館に差し掛かる入り口のホールに入ると中からボールが弾む音が聞こえる
私は入り口から声を掛ける
「下校時刻なので、速やかに下校してください」
私の声に友梨奈が反応して何かを言いかけていたが、私は無視して体育館を去る
そのまま職員室に行き、体育館に生徒がまだいる事を報告して下校する
友梨奈と顔を合わせたくなかったし、話もしたくなかったから
朝もいつもの時間に登校して、見回りに体育館に立ち寄るのはやめた
私が見回らなくても、すぐに友梨奈を見る為に生徒が集まるから何かあっても誰かが対応するはず
放課後も体育館のホールからボールの音が聞こえたら、私からは声はかけずに職員室に報告だけして下校する
そんな日々が続いた
私が声を掛けなくても
私が気にしなくても
友梨奈には応援してくれる生徒
気にかけてくれる生徒がちゃんといる
私がわざわざ気にしたり、声を掛ける必要なんかないと言い聞かせて過ごす
そんなある日の朝、副会長から
「会長、あの噂知ってます?」
「私が校内の噂に敏感だと思う?」
「すいません。失言でした。実はある噂が広まってるんです」
「どんな噂?」
「平手がスランプで試合ボロ負けが続いてるみたいだと」
「そうなの?」
「えぇ。スポーツ特別枠で入学、入部したのに、その働きを全く出来てないらしく、次の大きな試合で成果が出せなければレギュラー落ち、秋の試合でさらに成果が出せなければ退学になるかもって」
「それだけで退学になるの?」
「スポーツ推薦と特別枠は扱いが違いますからね。色々免除されてるのもありますし、平手だけは色々学校側から提供してるものもあるみたいなんで…仕方がないと言えば仕方がないのかもしれません」
「どうしてスランプになったのかしら?」
「さぁ、そこまではわかりませんが…朝と放課後の自主練もやめてしまったようで」
「やってないの?」
「やってはいるけど、身が入ってないみたいで…どうしますか?」
「えっ…?」
「生徒会で一度、平手と話して見ますか?」
「そう…ね…。ちょっと考えさせて」
「わかりました」
我が校には風習がある
推薦枠で入学してきた生徒をサポートする風習
特にスポーツ推薦枠で入学してきた生徒は突然のケガなどで、部活が続けにくくなる子もいる
推薦枠だからと学校に居づらくなったり、登校しにくくなったりしてしまう生徒が、退学ではなく、無事に卒業出来る様に生徒会が生徒と学校側の間に入りサポートする
このサポートで退学をせずに卒業出来た生徒も数多くいる
友梨奈は特にスポーツ特別推薦枠だから、学校に居づらくなる可能性は高い
学校側から自主退学を促される可能性も高い
だから副会長の言うサポートが1番必要な生徒であるのも確か
しかし、そのサポートは私が友梨奈と面談しなければならない
冷静に話せるか自信がないから…
でも私情を挟めるわけにもいかない…
放課後の生徒会で私は覚悟を決めた
「平手さんの生徒会サポートを実行したいと思います。反対意見はありますか?」
反対意見も出ず、満場一致で賛成に
「副会長、明日平手さんに声を掛けてください。平手さんの都合のつく日に私が面談します」
「わかりました」
次の日の生徒会会議で、副会長からは明日にでもお願いしますと返事があり、明日の放課後、友梨奈と面談が決まった
そして…面談当日
コンコンコン、生徒会室のドアがノックされる
「どうぞ」
「失礼します」
友梨奈が面談に来た
「平手さん、そこのソファに座ってください」
「はい」
友梨奈は言われた通りに座る
私も向かい側のソファに座り対面する形になった
友梨奈の顔を見るのは久しぶり
私の心臓は友梨奈を見て早くも反応する
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
どんなに反応しても冷静を装い話す
「面談をする理由は説明されてますか?」
「私がスランプに入ってて、推薦枠が怪しいんじゃないかって話でしょ?」
「そうです。生徒会としてはスランプの理由と、万が一解決出来ない場合、退学せずに済むよう学校と掛け合いたいと思います」
「スランプねぇ〜」
「違うんですか?」
「まぁ、スランプっちゃスランプだけど」
「理由があるなら解決出来る様に協力します」
「それは生徒会として?」
「生徒会以外無いと思いますが?」
「個人的に協力してよ」
友梨奈の話し方や態度に違和感を感じる
彼女は本当にスランプで悩んでいるのだろうか?
退学の危機を感じているのだろうか?
「なぜ私が個人的に協力しなければいけないんですか?」
「渡邉会長にしか治せないスランプだから」
はい?なぜ私にしか治せない?
「私にしか治せないとは?」
「スランプの原因だから?」
は?私がスランプの原因?
なら私の不安定になる原因はあなたなんですけど?
私は抑え込んでいた怒りが爆発しそうだった