少しずつ、少しずつ私の記憶が曖昧になっている


友梨奈とお試しで付き合い始めてから半年が経った

今ではお試しかそうでないか曖昧な関係の私達だけど、私の心は友梨奈に奪われつつある


友梨奈はいつも私を前向きにしてくれるからとても有り難い

毎月の治療にも付き添ってくれる

でも私の状態は良い方へとは向いていない


毎日接している人の事はよくわかる

たまに接している人は少し覚えてる

しばらく接していない人はあまり覚えていない


あれほどまでに忘れられなかった元恋人は1年近く、声を聞いてなければ、顔を見る事もなかったからすっかり私の記憶から消えかかっている


そうやって私の症状は少しずつ変わってきている

治療をすれば良くなると思っていたけど、現実そう上手くはいかない


「理佐さん、お疲れ様です」

「友梨奈」


「定時のチャイム鳴ったから迎えに来ちゃいました!」

「もうそんな時間?」


「集中しちゃってたんですね、理佐さんは一生懸命になると集中モードが深いから、チャイム聞こえなかったんですね」


友梨奈はそう言ってくれるけど、チャイムが鳴ったけど、私が片付けしてる間に忘れてしまったんだ


「そうなのかな…」

「きっとそうですよ!理佐さん、片付け済んでるなら帰りましょう」


「まだあと少しかかるけど…今日は木曜日だからみんな早く帰ってるよね…急がないとだよね」


私の会社は木曜日は全員定時で帰る決まりになっている


「理佐さん、今日は月曜日なんで、急がなくて大丈夫ですよ」


あっ…またやってしまった…

この頃、曜日の感覚がマヒしている

1日の中で何度も曜日を間違えてしまう

今日が何日で何曜日なのかちんぷんかんぷんになる

症状が少しずつ進行している証拠だ


「準備出来たよ、友梨奈帰ろう」

「はい、帰りましょう」


「友梨奈」

「はい」


「今日は何曜日だった?」


スマホを見たそばから私は聞いてしまう

スマホで確認してもわからなくなってしまうから


「月曜日です。今夜は夕飯、何でしょうかね」


「友梨奈のお母さんは料理が上手だから何を食べても私は好きかな」

「それ、母が聞いたらきっと泣きますよ」


「泣かれちゃうの?」

「嬉しくて号泣ですよ」


私は友梨奈の家にお世話になっている

私の実家は地方にあるのと、病気の事は話していない…

気軽に相談出来るほど家族仲が良くないのもあるから


友梨奈の家族はそれも踏まえて私を居候させてくれている


友梨奈が私と一緒にアパートで暮らしたいと言ったら、逆にこっちで暮らした方がいいと提案してくれた


私は正直、ありがたかった

友梨奈の家族は温かくて、私の理想の家族像だから

それに1人にならない安心感もある


「友梨奈、家に帰る前に私はどこかに寄りたいと言っていた?」


スマホのメモ画面に買い物、帰りと入っている


しかし、何を買うのかまで書いてないからわからない…全く覚えていない


「本屋ですね、理佐さんが毎月楽しみに買っている雑誌の発売日なんで」


「雑誌の発売日かぁ、寄っていってもいい?」

「もちろん!」


本屋に着くまで他愛もない会話を友梨奈と話す

友梨奈はいつも私を笑顔にしてくれる

彼女と出会えて本当に良かった


「理佐さん、理佐さーん」


隣を見ると友梨奈がいない

声がする方を振り返ると


「本屋過ぎてますよー」


本屋?何かあったっけ?

スマホのメモを見る…雑誌発売日

そうだった…急いで友梨奈のいる方に戻る


「話に夢中になっちゃいましたね。理佐さんが本屋側を歩いていたから目に入って思い出したけど、入らなかったら私も忘れてました」


友梨奈は私だけが悪くないように言ってくれて本当に優しい

そして私の中に愛しさもどんどん芽生えていくのがわかる


このままなんとか生きて友梨奈のそばに…

そばに…いれたらいいな…