ヤキモキしているあっという間に新人研修の日が来る


もう何も考えず、自分らしくいこう


いつも通りの時間に起きて

いつも通り支度をして

朝ご飯を食べるのにリビングへ降りていく


「友梨奈?友梨奈?」

「うん?」


「大丈夫?」

「何が?」


「バスケの試合前みたいな状態になってるから」

「えっ、無になってた?」


「思いっきりなってる」

「今日、大事な研修があるんだ」


「そうなの。久しぶりに無になる友梨奈になるって事はよっぽど大事な研修なのね」

「うん。私の将来がかかってるんだ」


「それは大変だ。お母さんはいつだって友梨奈の味方で応援団長だからね」

「うん。だから心強いよ。お母さん、いつもありがとう」


「友梨奈のその笑顔見れたから、お母さん、夕飯は友梨奈の好きな物いっぱい作って待ってるから」

「うん!楽しみにして頑張るね。そろそろ時間だから行かなきゃ」


「友梨奈なら大丈夫!緊張せずリラックス、リラックスだからね」

「うん。じゃぁ、いってきます」


「行ってらっしゃい」


母に頑張れーと背中に気合いを入れてもらい、会社へと向かう


会社について、研修までの時間はやるべき仕事をこなす


ついにその時間が来た


けれど研修場所のメールが届いていない

上司にその旨を確認すると、直接理佐さんの部署に行くよう言われた


場所とデスクの位置を聞き、私は理佐さんの部署へと向かう


ドクンドクンドクン、ドクンドクンドクン

理佐さんへの距離が近づいていくほど鼓動が早く、強く打ちつける


理佐さんの部署の前に立ち、そっと部屋の中を覗く、周りを見渡し

あっ、いた


ドクンドクンドクン、ドクンドクンドクン

心臓の音は周りに聞こえてるんじゃ?ってくらい強く打ちつける


深呼吸して心臓を落ち着かせ声をかける


「渡邉先輩」


理佐さんはパソコンを見つめたまま、全く反応がない

もう1度、声をかける


「渡邉先輩」


やはり全く反応がない

何か考え事をしているのか、まるで彼女だけが別次元にいるような雰囲気が漂う


「渡邉先輩!」


さっきより少し大きめの声で呼んでみる

全く聞こえてないみたいで

完全に別次元にいるようにしか見えない


困った、部屋には他に誰もいない

頼みの綱の由依さんの姿も見えない


お腹に力を入れ、試合の応援の時のような大きな声で呼んでみる


「渡邉先輩!!!」


ダメだ…全く微動だにしない

ずっと一点を見つめたまま

大丈夫だろうか?

あのまま意識を失っていたりするんじゃ?

変な不安や心配が頭をよぎる

どうしよう、近づいて声をかけようか?

迷っていると


「理佐、理佐、理佐!」


私よりも遥かに大きな声で理佐さんを呼ぶ声がする


この声は…声のする方をみるとどこから現れたのか由依さんがいた

由依さんの声にやっとこっちの世界に戻ってきた様な反応で


「は、はいっ」

びっくりしたのか、理佐さんは声を裏返し返事をしている

「理佐、平手さんさっきからずっと、ずっと理佐を待ってるよ?」

そう言うと私の方を指さしながら、由依さんはウィンクしてくれたので

私はアイコンタクトでお礼をする


私の方を見た理佐さんは、あなたは誰?

みたいな表情をしながら何か考え、デスクにあるスケジュールを見て


「あっ!今日から新人研修だ」


忘れてたんかい!

私は思いっきり突っ込みたくなった

しかしここは私の部署でもなければ、突っ込み入れられる仲でもないので、心の中で突っ込みをいれる


忘れてればそりゃなんの連絡もこないよね


「理佐、煩ーい」

急に大きな声を出した理佐さんに、すかさず突っ込みを入れるのが由依さんらしい笑

「あっ、由依ごめん、平手さんもごめんね、すぐ用意するからね」

本当に申し訳なさそうに言ってくる顔があまりにも可愛くて
私は胸がキュンとしてしまう
その笑顔見れたら、忘れられてた事も許せるよ

かなり準備に手こずっている理佐さんを見て由依さんが気になる一言を言った

「理佐、もしかして再発してるわけじゃないよね?」

そう言うと心配そうに理佐さんの顔を覗き込んでいる

「大丈夫だよ。由依が海だ、プールだ騒ぐから忘れちゃっただけ」
「それならいいけど…本当に大丈夫?」
「大丈夫!」

由依さんはかなり真剣な顔で聞いている
理佐さんは大丈夫って笑ってはいるけど、由依さんは納得した感じじゃない

私の知らない理佐さんがいる、これが天の言っていた意味だろうか?

再発…きっと病気がって事だよね…
由依さんがあんなに心配そうにするって事はかなり深刻な病気なのかな…

「平手さん、待たせてごめんね、じゃぁ、会議室に行こう」
「はい」


優しく声をかけてもらったけど、私の頭の中は再発と言う一言が離れない
深刻そうな由依さんと、誤魔化すような理佐さんの態度

私の頭の中はずっとその再発となんの病気なのかでいっぱいになっていた