いつもの時間

いつもの電車

いつもの車両


何も変わらない毎日をルーティンの様に繰り返し、大学に通う毎日

でもつまらないわけじゃなくて
私なりに充実した毎日ではある

友達や家族との時間も楽しい
恋人はいないし、恋もしてないけど
今は欲しいとか恋したいとかもない

何か1つあるとすれば…
やりたい事、やってみたい事が見つけるまでは就活したくないのが私のこだわり

ちゃんと目標や、やりがいがある物が見つかるまでは動きたくないのが私の性分で

私のこの性分を両親も理解してくれてるのがありがたい

ただ、その日はなんか気持ちが違った
就職した気持ちになって、いつもより早く家を出てみたくなったから

「お母さんおはよう」
「おはよう…って友梨奈どうしたの?」

「何が?」
「こんな朝早くに起きて」

「なんか早くに目が覚めて、早く出てみたくなった」
「そうなんだ。朝ご飯は食べてく?早いけど食べれそう?」

「お腹は空いてるから食べる」
「じゃぁ、用意するね」

「おにぎりがいい、うめのおにぎり」
「うめのおにぎりね、おにぎりだと味噌汁付きなんでちゃんと食べてね」

「は〜い」
「いい返事でよろしい」

お母さんが作ってくれた、お味噌付きのおにぎりを食べて、身支度を整え家を出る

いつもと違う時間
いつもと違う車両に乗ってみる

いつもより電車は混みあってるけど、それもなんか嫌じゃない

電車から下りて、ふと前を見た時…
知っている人でもなければ…
全くの通りすがりの人のはずなのに…

その人の後ろ姿に、後ろ姿なのに

ドクンドクンドクン、ドクンドクンドクン

鼓動が早く、強く高鳴る

ドクンドクンドクン、ドクンドクンドクン

あの人は誰?
私が知ってる人の後ろ姿じゃない
見ず知らずの人なのに
湧き上がってくる思いが
溢れ出してくる思いがある

なんだこの気持ちは…
こんな気持ちは味わった事がない

あの人に生涯を捧げたい
あの人と生涯を共にしたい…

違う、そんな希望的な思いじゃない!
もっと、もっと確信的な決定的な気持ち

あの人は私と生涯を人生を共に生きる人
私とあの人はずっと一緒に生きてく
私達は運命で結ばれている
私には不思議な力なんかないはずなのに
あの人の小指と私の小指が赤い糸でつながっているのが見える

大学に向かうのも忘れて、私はつながった糸をたどるようにその人について行く

ドクンドクンドクン、ドクンドクンドクン

後ろ姿しか見えないけど、ずっと私の鼓動は強く、高鳴るのをやめない

そしてあるビルの中に入って行った
◯◯会社…
ここがあの人が働いてる会社なのかな…

その日から私は毎日
あの時間
あの車両に乗って
あの人の後ろ姿についていく

悟られないよう
知られないよう
距離は保って

だからか、今だにあの人の顔がわからない
それでも…後ろ姿だけで

ドクンドクンドクン、ドクンドクンドクン
胸の鼓動は強く高鳴り、心が弾む
強く高鳴る鼓動は味わえば味わうほど
媚薬のように癖になっていく

その後ろ姿を見ているだけでも
私は恍惚とした幸せな気持ちに包まれる

毎日、あの人が会社に入るまで見送ったら大学に向かう

今日も無事に会社に入るのを見届けて、大学に向かおうとした時

「てち?」

てち…この呼び方で呼ぶのは高校までの私を知ってる人…
まさかこんな場所で知り合いに遭遇とは

あの人を追ってるのを見られただろうか?
冷静になってきた私の頭はこの声の主が誰なのかを理解していく…
そう…きっと…1番知られちゃいけない人なんじゃないか?
私の全身から血の気が引いていく

高鳴る鼓動は焦りの鼓動へと変わる
幸せから地獄へ
まさにそんな気持ちにすらなっていく

あぁ、もはやここまでか…
友梨奈ちゃん絶体絶命のピンチと
頭の中で木霊している

小さい妖精の格好をした私が、頭の周りをグルグル廻って

友梨奈ちゃん絶体絶命のピンチ
友梨奈ちゃん絶体絶命のピンチと
木霊している

私の体中に冷や汗が流れ始めた