ピピピ、ピピピ。 


いつもと同じ時間にアラームが鳴り、起き上がる。 

メガネをかけてスマホを確認。 

あっ…そっか…今日は…。 

日付を見て私は懐かしい気持ちにかられる。 

 

今日はかつて恋人だった人の誕生日。 

 

私は懐かしい気持ちの中にまだ残る想いと、胸の奥に寂しさを抱く。 


あの時、ケンカしてなかったらまだ一緒にお祝いしてたのかな…。 


そんな事を考えながら身支度を整え、家を出る。 

いつもと変わらない景色。 

いつもと変わらないルーティン。 


仕事や生活に不満があるわけじゃない。

仕事にやりがいを感じるし、友達とも楽しく過ごせてる。


そんな私に足りないのは彼女の存在だけ…。

あの頃の私は仕事や家族の事で全てに余裕がなかった。 


幼な過ぎた私は恋人をないがしろにしてばかり。 


彼女の言葉を聞く余裕や、向き合う余裕、彼女のくれる優しさや、愛情に目を向ける事が出来なかった。 


ただ、ただ好きと言う想いだけで一緒にいたようなもの。 

 

結果、彼女を孤独にし、私との別れを選ばせた。 


彼女を失ってからの私はその存在の大きさに気づく日々。 


何度も復縁したくて連絡をしてみたけど、全く相手にしてもらえない。


最後は恨み辛みの言葉を投げかけられる始末。


あれから時は流れ、季節も何度も変わったけれど、私は今も彼女を忘れられずにいる。 


私は思い出の中から抜け出せず、彼女を想う毎日。 


二人で過ごした時間を忘れたくなくて、彼女からもらったメールを読み返しては泣いて、後悔と懺悔の繰り返し。 


戻らない時間。 

やり直せない時間。


私はきっとこのまま彼女との想い出の中で生きていくんだろうな…。


いつも以上に彼女の事で頭をいっぱいにして歩く。 


今日は誰かと過ごすのだろうか?

幸せな時間を過ごしてほしい。

たくさんの人に祝われるのだろうか?

どんなプレゼントを貰うのだろうか?


きっと新しい恋人と…

新しく誰かを好きになって…


幸せを願う気持ちと、嫉妬に溢れた気持ちが胸の中でごちゃごちゃと混ざって私の心を掻き乱していく。


想像と妄想が暴走して止まらない。


ちょっと離れた位置から私を呼ぶ声が聞こえる。


「理佐、そっちは会社じゃないぞー」 


その呼びかけにハッと我に返る。

いつの間にか、会社を通り過ぎていた。 

急いで声の主の方を振り返ると、戻って来いと手招きしている。


急いで声の主の方に引き返す。


「おはよう、ねる」 

「おはよう、理佐、大丈夫?」 


「大丈夫だよ」

「随分、自分の世界に没頭してる感じだったから」


「実は…今日…誕生日だから…」 

「あっ、そういうこと。まだ忘れられないんだね」 


「逆に想いだけが強くなってくから困る」 

「そりゃ重症だ」 

「だよね」 


ねるは高校の同級生だ。 

大学は別々だったけど、会社に入社した時に再会。

今は私の良き理解者で親友。 

彼女との事も全て知ってくれている。 


寂しさを堪えながら、1日仕事をする。

今日は何度も気持ちがそぞろになり、ミスをしそうになってばかり。

仕事に集中したくても、私の気持ちは彼女の事を考える方に集中してしまう。


やっと定時の時刻になり、帰ろうとした時 


「理佐、今日ご飯でも食べに行く?」

「今日は真っ直ぐ帰る」 


ねるが私を気づかって声をかけてくれたのがわかる。


「そう?わかった。じゃぁ、ご飯はまた今度行こう!」 

「うん」 


ねるのしつこく誘ってこない所がありがたい。 


そっとしてほしい時にそっとしてくれて、助けてほしい時にタイミング良く助けてくれる。 


私もねるみたいに相手の気持ちを上手く理解したり、察してあげれてたら彼女を失わずにすんだのかな…。 


私は彼女が会いたがった日も、助けを求めてきた日も、忙しさを理由に自分を優先していた。


その度に彼女は我慢してくれていたけど、体調を崩したのをきっかけに我慢の限界を超えて私から去っていった。 


今なら、今の私なら同じ過ちは繰り返さないのに…。 

でも失ったからこそ自分のダメさにも気づけた。

そう考えると結局、結果は同じだったのかな…。


毎年、彼女の誕生日にはケーキを買って帰る。

1人で食べるには大きすぎるホールケーキ、夕飯はオムライスと決めている。


忙しい時でもしっかり食べれるようにと彼女がよく作ってくれた、彼女の大好物。 


私は彼女の作る料理が大好きだった。

思い出すとすぐ涙が出そうになる。 


泣くなら誰にも見られない所、部屋まで我慢しなきゃと、涙をこらえて家へ向かう。 


アパートに着き、玄関を閉めた瞬間、彼女を想い出し涙を流す。


こうやって1人で何度泣いただろう。

泣いても、泣いても彼女は戻らないのに。


小さな声で彼女の名前を囁いて、私は嗚咽する。


友梨奈…友梨奈…会いたい…声が聞きたい…

友梨奈…寂しいよ…友梨奈…友梨奈…


泣くだけ泣いて、気持ちを切り替える為にシャワーを浴びる。

1度、気持ちをリセット。


よし!主役のいない誕生パーティーの準備をしよう。

主役もいないのに部屋を飾り付けていく。

受け取ってくれる主のいないプレゼントにも飾り付けをして演出する。


1人で誕生パーティーをした次の日の朝は必ず虚しさと、虚無感しか残らないのはわかっている。

でもどうしてもやめられない。


周りが知ったら私はきっと痛いって言われるんだろうなぁ…。

そんな事を思いつつも、誰にも知られなきゃいいもんねと開き直る。


飾り付けも終わり、オムライスも作り終えた時、タイミング良く玄関のチャイムが鳴る。


宅配頼んでたっけ?

それともお母さんが何か送ってくれたのかな?


ドアスコープも確認せずに玄関のドアを開ける。


「はーい、今、開けまーす」


そう言いながらドアを開けると


 「理佐」 


 懐かしい、聞き慣れた声。

目の前には愛しくて、ずっと求めてた彼女が立っていた。

「友梨奈…どう…して?」
「ほら、今日、私の誕生日だから」

「そうだけど…」
「プレゼント、もらいに来たんだ」

「何も用意してない…よ…」

そう言った私は友梨奈に抱き寄せられて

「ほら、これ、これをもらいに来たんだ。私のだから」

「友梨奈…?」

「やっぱり、理佐を忘れられなかった。私は理佐が好き。寂しい思いも、嫌な思いもいっぱいしたけど、私には理佐じゃないとだめみたい」 

「うそ…そんな…わけ…ない」 


 私の目からたくさんの涙が溢れてくる


「ウソじゃない。離れて、突き離して、意地になってたけど、理佐から連絡が途絶えて、時間が経てば経つほど寂しさが増した」 

 「私…で…いい…の?」


 泣いているから上手く言葉が出ない。  


「うん。理佐がいい。理佐じゃなきゃだめなんだ。だから理佐を私に頂戴」 

「うん、私はずっと、ずっと友梨奈だけだの私だよ」 


 「うん。知ってる」 


そう言って悪戯な顔をして友梨奈は笑って、優しい、優しいキスをしてくれる。 


「友梨奈…ありがとう」

「お礼を言うのは私の方だよ」


「帰ってきてくれてありがとう」

「私をまだ想ってくれててありがとう」 


もう1度、2人で深い口づけを交わす。ぐぅぅ~友梨奈のお腹がなる


「友梨奈、お腹空いてるの?」 

「実はめちゃくちゃ空いてる」 


「嫌わないで聞いてね」

「うん?」 


「実は1人で友梨奈の誕生日パーティーやろうとして、オムライスとケーキがあるから、一緒に食べる?」 

「本当に?それ最高じゃん!あと、ケーキ以外にも食べたい物が…」 


「作れる物なら、すぐ作るよ」

「わかってるくせに〜」 


「うん?」 

「知らない振りしないで、わかってるくせに〜〜」 


と私の肩におでこをグリグリさせてくるこの仕草は……… 

友梨奈が誘ってくる時の必殺技。 


「いいよ」 

「やったぁ〜!今日は最高の誕生日だ!」


2人でオムライスとケーキを食べる。

ベッドで友梨奈と甘い甘い時間を過ごす。


やっと恋い焦がれた愛しい人の誕生日を一緒に祝う事が出来た。 


友梨奈HAPPYBIRTHDAY 



おわり 


平手友梨奈さん、お誕生日おめでとうございます🎂