思わず部屋に響き渡る声を出してしまう

「理佐、煩ーい」
「あっ、由依ごめん、平手さんもごめんね、すぐ用意するからね」

そう言って平手さんを見るとまたぺこりと会釈で返してきた

今日から4月に入った新入社員の教育担当だったのをすっかり忘れていた

由依が騒いだり、昔を思い出してしまったせいですっかり頭から抜けていた

「理佐、もしかして再発してるわけじゃないよね?」

心配そうに由依が私の顔を覗き込む

「大丈夫だよ。由依が海だ、プールだ騒ぐから忘れちゃっただけ」
「それならいいけど…本当に大丈夫?」
「大丈夫!」

私は1年前くらいに病気を患った
そのせいで恋人とも別れる事になった

今は完治とまではいかないが、良い状態を保っている

病気にならなければ別れずに…
いや、そんなことはない

病気になってもならなくても私達の結果は同じだったと思う

価値観も違うし
好きなものも違う
考え方も、捉え方も違う
ダメになってしまう要素はいっぱいあったから、病気にならなくても私達は終わっていた

私は真剣にあの人と向き合えてなかったし、将来に対する覚悟も足りなかった
だから結果的に振られて捨てられる結末は同じ

好きだけの気持ちで自分だけがどんどん夢中になって、なりすぎて、我を忘れて、重くなって、束縛して、自由を奪って、嫌われて振られた、それだけのこと

相手はきっともう新しい恋人がいるはず
魅力に溢れた人だし、私なんかよりもっと見映えも、性格も優しい人を掴まえてる

私は…次の恋愛どころか、まだ諦められず、想いを断ち切れないまま

いけない…こんなこと思い出したくないのに…

ダメだ、気持ちを切り替えなきゃ!
急いで新人研修の準備を整え席を立つ

「由依、行ってくるね」
「いってらっしゃい」

まだ心配そうな由依に大丈夫だよって口パクで応える

普段は冗談ばかり言ってるけど、こういう時は真剣に心配してくれる優しい親友だ

「平手さん、待たせてごめんね、じゃぁ、会議室に行こう」
「はい」

無表情、無テンションの平手さんを連れて会議室に入る

2人で使用するには広すぎるが、ここしか空いてなかった為、仕方ない

平手さんと向かいあい座る

「改めて、平手さん、待たせてごめんね」
「大丈夫です」

やっぱり無表情、無テンション

「渡邉先輩は病気なんですか?」
「えっ?」

突然のストレートな発言にびっくりする

「由依さんが再発したの?って先輩に聞いていたのが聞こえたので」
「そう…えっ?…ちょっ、ちょっと待って、由依さん?小林先輩じゃなくて、由依さん?平手さん由依と親しいの?」

「聞いてませんか?私、由依さんの中学の後輩なんです」