「あんたなんか大嫌い」 


そう言って私の傍から去っていく人達 

私は人と上手く付き合えない

思った事をストレートに言ってしまったり、強く言ってしまうから 

悪気があるわけじゃなく、その人が大切だから強く言ってしまうだけなのに… 

私は人と上手くやれない

ならば誰とも深く関わらずに生きていこうと決めていた 

彼女に出会うまでは…


バイト先で昼食を摂っていると話かけられる 


「パン、好きなの?」 

 

声の主を見上げるとバイト仲間の渡邉さんだった 


「好きと言うより手軽で食べやすいから」「そうなんだ。料理、得意じゃない方?」 

「得意ではないかな」 

 

私は出来る限り早く会話を終わらせたくて素っ気なく答える 


「好きな食べ物とかある?」

 

渡邉さんは私が会話をあまりしたくないのに気づいてくれないのか、さらに話しかけてくる 


「とくにはないかな」 

「これなら食べやすいとかもないの?」


この瞬間、私はしつこいと感じてしまう

早く会話を終わらせたい

私なんかに興味を持たないでほしい 

 

「特にないから、もういいかな?」


冷たくキツイ言い方になってしまった…。これが私のだめな所だけど、それ以上上手い言い方が見つけられない 


「あっ、ごめんね。また話そう」 


そう言って渡邉さんは去っていく

これで渡邉さんと話す事はもうない

しかし渡邉さんは次の日も普通に話しかけてきた 


「平手さん、休みの日は何してるの?

「何もしてない」 


「どこか出かけたりは?」

「特にない」 


「どんなテレビが好き?」

「特にない」


「好きな音楽は?」

「特にない」


「趣味は?」

「特にない」

 

渡邉さんの一方通行な会話は何日も続く

私もいい加減、我慢の限界を超える 


「平手さん」 

「あの、もう私に話しかけないでくれる?」 


「なんで?」

「私は渡邉さんと話す気がないから」  


「でも私は平手さんと話したい」 

「私と話しても楽しくないし、私と関わっても渡邉さんが嫌な思いするだけだから」 


「それは一緒にいてみないとわからないんじゃない?」 

「一緒にいてから嫌われるのはもう嫌だから、だから一緒にいたくない」 


「ずっと嫌われてきたの?」 

「私の性格を知るとみんな去っていく。私はすぐキツイ言い方をしちゃうし、相手を押さえつけるような言い方もしてしまう。だから渡邉さんも私の被害者になる前に離れてほしい」 


「私は構わないよ。被害者になっても」「みんな最初はそんな風に言う。でも結局離れてく」 


「私は離れない」

「そんなの信じられない」


「信じなくていい、でも私といてみなきゃ信じれるかはわからないでしょ?」

「信じたくないし、一緒にいたくないし、これ以上私に興味を持ってほしくない」


「興味より、向き合ってみたいかな」

「えっ?」 


 向き合ってみたい? 


「平手さんの性格を全部知って、向き合ってみたい」

「それを信じて心を開いて、最後はやっぱり離れたいって言われて、そのたびにキズつきたくないから向き合いたくない」


「向き合いたくなくても話してよ、平手さんを知りたい」

「話したくないんだから話したくないし、知られたくない」 


「知りたい」

「知られたくない」


「聞きたい」

「聞かせたくない」


「言わせたい」 

「言わされたくない」


この渡邉さんとのやり取りは2週間をすぎても変わらずで私は限界を超えていた。 

渡邉さんのタフさとしつこさに尊敬の念すら湧き上がるくらい嫌になっている


「平手さん、話す気になった?」


優しい、可愛い笑顔で毎日の様に聞いてくる渡邉さんは、綺麗でスタイルも良いのになぜ私にこんなに興味を持ってくるんだろう? と疑問でならない


「渡邉さん、私よりもっと寄り添いがいのある人はたくさんいるから、別な人に寄り添ってあげて、私は間に合ってるから」「間に合ってるって他に理解者がいるって事?」


 食いつくのそこ? 


「いや…言いたくない」

「私がこんなに毎日、毎日アピールしてるのに他に理解者がいるとか嫌なんですけど?」 


なんで私が怒られてるの?

しつこくされて怒りたいのは私なのに。 


「なんで渡邉さんが怒るの?理解者がいるとかいないとか渡邉さんには関係ないよね?」 


 私もイラッとして語気が強まる


「関係あるよ!私は平手さんが好きだから!好きで、好きで仕方ないの!それがわからないの?」

「私を好き?」


あれだけ冷たくあしらってきたのに…

私を好きとかわからない 


「一目惚れなの。周りと距離を置いてるのも気になるし、冷たくあしらってくるのも、平手さんの全部が気になって仕方ないの!」 


泣かせてしまった…

まさか泣いてしまうなんて…

私は泣き顔に弱い… 


「ごめん」

「それ、なんのごめん?私の気持ちに応えられないごめんなの?」


「いや、全部に対してのごめん…だよ」「全部って、私の気持ちに応えられないも含まれてるって事だよね?」


「まぁ、そうなるね」

「それは嫌、絶対に嫌!」


「へっ?」 

 

声が裏返る 


「私を知りもしないで私を振るのはだめだからね」

「だめって言われても…気持ちに応えられないし、知る気もないし…」


「知ってよ!私を知ってそれでもだめなら思いっきり冷たく振ってもいいから」

「アハハ、冷たく振ってもいいからって、なにそれ、おかしい」


思わず笑ってしまった

なぜかはわからないけど、ツボに入ったのは確かにだ

笑いが止まらなかった

こんなに笑ったのはいつぶりだろう


「そんなに笑うなんて酷すぎる、笑うところじゃないのに」

「なんかツボに入っちゃって、それにわかったでしょ?私は渡邉さんが言った通り酷い人だから」


「それでも、そう言われても平手さんといたい、好きが止まらないの」

「私は渡邉さんを好きにはなれるかわからないよ」


「そうだとしてもいい。私は平手さんを守りたい」

「私を守りたい?渡邉さんが?」


「うん。平手さんに一目惚れした時にそう思ったの。私がこの人を守りたい、幸せにしたいって」


「私といたら渡邉さんは不幸にしかならないよ」

「もしそうだとしても平手さんと一緒にいれるだけで幸せになれるし、どんなに人生最悪な状況になっても一緒に乗り越えられる気がする」 


「私は疫病神って言われてるし、きっと渡邉さんに不運や不幸な事がいっぱい起きたりしちゃうかもしれない。渡邉さんにはもっといい人が他にいるよ」

「私は疫病神だとしてもそんな平手さんがいいの!平手さんじゃなきゃだめなの!それにそんなに自分を疫病神って言うなら私が直してあげる」 


「直す?」

「そう。平手さんが自分自身を疫病神って言わなくなるように直して変えてあげる」


「無理だよ、簡単には直るわけない」

「そんなのわからないでしょ?私は何年かかっても、どんなに傷つく事になっても、ずっと傍にいて直して変えてあげる」


「無理だよ。きっと他の人と同じ様にすぐ根をあげて離れてくよ」

「私は他とは違うから一緒にしないで。私が絶対にどんなに酷い事を言われてもその度に向き合って、直してあげる。平手さんから離れない、嫌いにならない、しつこくずっと一緒にいてやるから」


「絶対、無理だよ」

「ならそうじゃないって思わせてあげる。だから一緒にいて。言った事、全て証明してあげるから」


渡邉さんの強い想いに私の気持ちが動いてく

この人は本当に他の人とは違うかもしれない、信じてみようかな…

そんな気持ちになる


「好きになれるかはわからないけど、それでいいなら」 


きっとこの時の私はもう渡邉さんに惹かれ始めていた

いつか渡邉さんを自分が幸せにしてみたい

そんな想いが私の中に広がっていく


「本当に?ありがとう」 


そう言った彼女の笑顔にドキドキが止まらなかった。

心から可愛いと思ってしまった。


また他の人と同じ様に離れていったとしても彼女と一緒にいてみたい。

渡邉さんと幸せになってみたいそう思えた。

これが私の初恋の始まり。



 

おわり