みなさん、こんにちは。

私がまだ十代のころのことです。

ふと気づくと、福岡のある繁華街のバス停に立っていました。

深夜の時間帯でもそこそこ賑わっているはずのこの場所は、珍しく辺りは真っ暗で、ネオンや人けもなくなっています。

繁華街の大通りに面したこのバス停の一角だけ、その暗がりにぼんやりと明かりが灯っています。

そこで、やはりここは自分の知っている場所なのだと思いましたが、何となく小さな違和感が拭えませんでした。

そうこうしていると、一台のバスが到着しました。

行き先は分かりませんでした。

今まで人けが全くなかったこのバス停には、どこからともなく老若男女の人々があらわれました。

その人々はお行儀良く列をなし、次々にそのバスに乗り込んで行きます。

乗り込む人々はみんな少し下を向いていて、表情は伺えない様子ですが、少しだけ覇気がないような、黒い影の濃い姿でした。

しかしバスに乗るのは嫌々ではなく、ご本人が望んでいるというのも伝わって来ます。

私はその列から少し離れて、その様子を見つめていました。

すると突然、先に乗り込み後方の座席についた幼い男児が、「何であの人は乗らないんだ！」と怒ったような形相で、バスの窓越しに私のほうを指さしました。

その男児の横に座っていたおばあさんは、「あの子は乗らないのよ。」と諭すように言いますが、男児は納得いかないような様子で、さらに怒りに苛まれて行きます。

その男児とおばあさんは他人のようで、男児の家族は同乗していないようでした。

バスに乗り込む人々の姿は元々の体のものであって、魂の成熟度とは関係ありません。

子どもであっても親よりも魂の経験値が高かったり、霊格が高いこともあります。

その男児の魂を見つめると、輪廻転生の経験が少なく、この世のことやあの世のことへ理解が少ないようでした。

さらにその男児は「自分が亡くなったこと」を受け入れられなくて、この世にいたい気持ちでいっぱいでした。

諭すおばあさんも、その他の乗客たちも、その気持ちは十分すぎるほど分かるけど、他人をうらやむのは無意味であり、成仏しなければさらに自分を苦しめると知っています。

ですが男児はそんなことはお構いなしとばかりに、混み合うバスをずんずんと降りて、私のほうへ向かって来るのが見えました。

ここでようやく、私はこのバスに乗ってはならないことを思い出しました。

「やばい」ときびすを返して逃げようとしますが、前を向いているにも関わらず、後ろから追いかける男児のほうがスピードが速く、その手がすぐそこまで迫っていることが分かりました。

「追いつかれる！」

目をつぶった瞬間に、ふわっと体が浮いた感覚がありました。

目を開けると、白くてふかふかの毛並みの上にいました。

内側からぼんやりと黄色く光っていて、角度によって紫色や桃色、水色に見えるウロコもあります。

眼下には深夜の静かな県道が見えていて、福岡の繁華街から一気に離れ、一人暮らしをしているアパートへ向かっているようでした。

ものすごいスピードなので、はっきりと場所が分かったのは太宰府あたりを飛んでいるときだけでした。

後ろからは先ほどの男児がまだ追いかけて来る気配を感じますが、後ろを振り向いてはならないような気がして、振り向きたい気持ちを抑えていました。

そこで私を助けてくれた人は「見ないようにしよう」ではなくて、「自分の体を思い出しなさい」と教えてくれました。

「え？私の体？」と思うと同時に、一人暮らしのアパートのベッドで寝ている自分の様子が見えました。

その瞬間にはっと息ができるようになり、その衝撃で目覚めた私は「助かった」と安堵しました。

そして誰かが私を助けてくれて、自分の魂を送り届けてくれたというのだけは、はっきりと分かりました。

その数日後の大晦日ごろになると、あの夜助けてくれたのは、私が生まれるときから守ってくれていた産土神様の白龍さんであることを知りました。

それは神様自身が「助けてやった」と言ったり、恩を売るようなことはなくて、時間が経ったとことで魂の記憶の整理が進み、あるとき「そうなのだ」とすんなりと「悟る」ようなものでした。

そのバス停は、あの世とこの世との境目の場所でした。

あのバスは、あの世行きのバスだったのです。

あの世へ行く方法は色々あって、これまでにも徒歩や旅客船など色々とお伝えして来ました。

現実と重なるように見えない世界の道や港、ターミナル、お店やバス停があるんですよ。

今日も最後までありがとうございました。

【長編】真夜中のバス停と白龍さん