『項羽と劉邦』は高校時代からの愛読書なんですね。

手垢で真っ黒に汚れてるし日焼けで色褪せてボロボロなんですけど(笑)。

 

 

「韓信の股くぐり」の説話が好きでした。

大志を貫く為には恥辱に耐えても道を踏み外さない。

無頼の身で定職に就かずにご近所さんに食事を分けてもらいながらも兵法を学び続けていたんでしょうか。

そんな韓信が立派な大剣を持ち歩いている事を気に入らないと見た連中が挑発しても決して乗らない。

ひとたび剣を振りかざして刑に服すれば志を成し遂げる事が出来なくなりますから。

 

劉邦陣営の常勝将軍として君臨したこの大元帥も、どうやら権謀術数においては世渡り下手な面があったりとかの人間模様がまた面白いんですよね~。先輩格の部将には侮られていたんでしょうが、ある時を境に軍規を破った古参の将軍を処刑するんですよね(恐)。確か正月明けの集合訓練か何かに親族の集まりがあって遅刻した人物だったと思います。言い訳の一切を受け入れずに軍法に照らして容赦無く処刑してしまいます。もちろん、一軍を率いて強大な項羽軍に挑もうとする訳ですから並大抵の意識では勝てません。戦場において策戦を忠実に遂行する軍隊たる為には紀律を厳しく徹底する必要もあったんでしょう。

その甲斐あってか韓信の指揮する劉邦軍は遂に項羽軍に勝利します。

 

しかし、人間の組織である以上、目に見えない思いや感情は間違いなくその組織の内部に宿る訳で、何時何処でどのようなカタチになって具現化するかは因果応報と言うべきなんでしょうか。韓信を高祖劉邦自ら不快感や猜疑心の対象として見做してしまいます。新参者が何を偉そうにしやがって、と言わば鼻につくって感じなんでしょうかね。もっとも、参謀格の張良、陳平、蕭何らはそこは冷静に評価していたようです。韓信抜きで項羽を打倒する事は出来ず、加えて元帥の地位を保証しその要求する報酬も黙認しなければ反旗を翻す可能性もある、と。楚漢戦争の終結まであくまで徹底的に利用しようと考えた軍師の張良や陳平の智謀は別格ですね。韓信は自ら独立して王国を築く勢力もあったし、実際にそれを提言する弁士もいたもののその選択をせず、最期は哀れにも粛清されます。戦略戦術において右に出るもののいなかった韓信でしたが、宮廷内の陰謀によってまんまと罠に嵌ってしまうんですから、完璧な人間ってやっぱりいないもんなんですね。

 

そしてまた話題は遡りますがもう一つ、秦帝国が滅亡した背景には、万里の長城や阿房宮の建設により国力が疲弊し人民の怨嗟が頂点に達して陳勝・呉広の乱のような各地での反乱に繋がった原因があると思います。それだけでなく、宦官趙高が頭角を現して以降、帝国内部に奸臣佞臣が跳梁跋扈し始めました。最強の軍隊と優秀な官僚を揃えた秦が内部から腐っていった経緯なんかは初めて読んだ時は驚きでしたね。

 

始皇帝亡き後、この宦官の陰謀で創業の功臣が次々と冤罪で失脚するんだから、そりゃ項羽と劉邦の反乱を鎮圧出来る人材なんていなくなるわ。実力主義みたいにして登用した章邯が反乱軍の鎮圧に連戦連勝、遂には項羽の叔父・項梁を討ち果たすものの、その活躍が妬まれてしまうんですよね(恐)。章邯率いる秦軍が劣勢に立ち援軍を要請すると、章邯ら勇将猛将が敵に内通したせいで秦軍が敗けているとかの罪状を捏造してその家族を皆殺しにして将軍達も召喚して処刑しようと謀ったそうです。もっとも、その噂も章邯らの耳に達し、秦軍でも抜群の戦闘力を誇った軍団は項羽軍に降伏してしまうんですね・・・。

 

権勢を欲しいままにした趙高は、密謀の片方を担った上司の李斯をも葬り、擁立した傀儡の皇帝に馬を見せておいてこれは鹿ですと群臣に言わせたんだから強烈なワルですよね(恐)。このエピソードって「馬鹿」という言葉の起源として有名ですよね。
その趙高の末路は物の見事な自業自得で笑えましたがその辺りも人間臭い物語です。

結果的に自分が傀儡にした二世皇帝を弑逆して別の皇帝を擁立しようと企みますが、秦の皇子と忠臣らにより趙高は一族もろとも抹殺されます。

この手の輩って組織を滅ぼす原因になるんでしょうね~。

会社組織だって命こそ取られなくても出世競争なんかでは失敗や醜聞をネタに足を引っ張られたり、場合によっては人間関係が原因で理不尽な仕打ちをされたりなんて事もあるんじゃないでしょうか・・・。

 

この小説は組織論とか処世術とかのエッセンスが凝縮しており本当に含蓄が深いと思いましたね。

この下巻の後の物語なんですけど、漢帝国を守った張良と陳平の深謀遠慮は凄まじい胆力だと思いました。高祖劉邦没後、鎌倉幕府の北条氏みたいに政権を簒奪しようとした奥方様の一族を、時期が来るまで待ちに待って一網打尽に討伐したんですよね確か。

天下取りに貢献した諸侯を最早用無しと潰しまくった漢帝国の方針は確かに道理から外れてる。張良、陳平らを支持する有力な王侯将相は結果的に見ても多数いたんでしょうが、それでも外戚一族への挑戦ですから自己犠牲の精神無くしてそんな危険は冒せないでしょう。

 

オイラもイイ歳なんだからそういうしたたかな知恵を持たねば(笑)。

 

【書籍】項羽と劉邦

【著者】司馬遼太郎

【出版】新潮文庫

 

2018年2月5日

 


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