随分と前になるが、趣味として磯釣りにハマっていたことがある。

当時、休日ともなれば、そそくさと釣り竿担いで磯に立った。

その日も、地元の港にある堤防へと朝早くから出掛けていた。

低気圧が近づいている模様で、少しづつ海が荒れ始めているようだった。

こうゆう時こそ大物が釣れるチャンスだ。

大掛かりな荷物をしょい込み、堤防の先へと歩いて行った。

先に着くと、数段の階段があり、その上に御座敷と呼んでいる少し開けた所がある。

そこが絶好の釣りポイント!朝早いせいか、誰も入ってはいない。

荷物を抱え直し、いざ階段を上ろうとした時だった。

ふと気配を感じ、振り返る。

そこには、白いワンピースを着た彼女が、白い小ぶりな日傘を差し、

にっこりと微笑みながら立っていた。

その時だった、ドーン と云う大きな音と共に、真っ白に砕け散った大きな波が、

今 まさに上がろうとしていた御座敷を物凄い勢いで、洗い流していた。

危なかった、もし上がっていたらただでは済まなかったろう。

呼吸を整え、もう一度振り返ると、もうそこに彼女はいなかった。