二年前に亡くなった親友の話として・・・

 

彼は頗る実直でまじめな男だった事を、先にお知らせしておきたい。

 

ある夜の事、彼の携帯が鳴る。

一回り程 年の離れた従妹からだった。

「お兄ちゃん、早く来て!」絶叫にも近い助けを求める声だった。

ただ事ではない、そう思った彼は、急ぎ向かった。

従妹の家までは、車で10分も掛からない。

着くなり敷地内に車を止め、玄関に向かい、チャイムを鳴らす。

鍵の外れる音と共に、ドアが開くと、そこに、大声で泣き崩れた従妹の姿を見た。

「おい、大丈夫か?どうした?」

とにかく、落ち着かせなければと、パジャマ姿の従妹の背に、

着ていたジャンパーを掛けた。

彼の顔を見て少しは安心したのか、表情が和らいでゆく。

 

彼女は、両親と3人で暮らしているのだが、インテリア関係の

事務所を経営している父と、そこの経理を担当している母は、

客先へと二人揃って出掛ける事が頻繁にある。

この夜も出掛けていたようだ。

度々の事なので、もう、すっかり慣れていた。

そんな夜は、好きなTV番組を見たり、音楽を聞いたりと、

自由な時間を満喫できる。そう、楽しい時間の筈だった。

しかし、この夜は違った。

南向きに出窓がある二階の部屋、今夜は満月。

月の明かりが差し込んだ部屋は、ナイトライトだけでも十分だ。

いつものように大好きな洋楽ポップスを聞いていた時だった。

何かの影が、月明かりを一瞬遮った。

すかさず出窓の方へと向けた目の中に、真っ黒な人のような物が

写りこんだ。

彼女の悲鳴が部屋中に響く。

と、同時に、その黒い影は、マントのようなものを翻し、満月の明かりの中へと

飛んで行った。

二階の南向きの出窓、その向こうは、ベランダなどは無い。

彼女が言うには、映画や小説に出てくる、吸血鬼のようだったと、

恐怖に怯えた顔で、彼に話したと云う。

 

実はこの話、初めてではないのだ。

何年か前、私の友人が、やはり同じような経験をしていた。

その時は満月かどうかは定かではないが、やたらと月が明るい夜だったらしい。

「飛んでったんだよ、月の方に向かってさ、黒いマント広げて、飛んでった」