昨年の事象です。
前回、登場した友人が経験したお話です。
相も変わらず、私事ではありますが、今だバイクに乗って遊んでおります。
休日ともなると、近くの神社仏閣を巡り、境内でお茶し、のんびりとリフレッシュして帰るのが、最近のライフワークとなっております。
その日も、北に上った処にある神社まで、プチツーリング。
その帰り道、たまにしか会えない友人宅へ、突然の訪問。
久しぶりの再会に喜んで迎えてくれた彼。
二人して、昔のように縁側に座り、蒸かしたての さつま芋を頬張りながら、
彼の入れてくれた深蒸し茶をすすり、お互いの近況報告。
暫く談笑していたのですが、ふっと、彼の顔が曇ったような・・・。
すると、「いや、最近な」と、切り出すと、話し始めた。
云うには、この頃、夜中にオカシナ夢を見るという。
それも、酷い時には毎晩のように、只、昼間の農作業で疲れ切っている時は見ないとの事。
その夢というのは、毎回、同じ内容だというのです。
夜中、寝ている天井の方から、ピシャン、ピシャン と、小さな音が聞こえ始め、
それをきっかけに目が開いてしまう、勿論 それも夢の中らしい・・・。
すると、彼が寝ている直ぐ横を、幅の狭い小川が流れている。
さらさらと、それは心地良い音をさせながら、ゆっくりと流れているそう。
暫く心地良さに酔いしれていると、足元の上流から、何やら、やって来る。
その影は寝ている彼の方へと静かに近づいて来る。
目を凝らして見ていると、その人影は、赤地に金や銀の細かな刺繍が施された、
とても美しい厚手の着物を纏った女性のようだと云う。
髪の毛が大きく膨らんでいて、そこには幾つもの色とりどりの簪(かんざし)
が、刺さっている。 只、顔がはっきり見えない。
その人物が彼の顔近くまで来た時、その気迫に圧倒され、そこで目が覚める。
と、彼は、ゆっくりとした口調で、語った。
あまりにも頻繁に見るので、寝不足で辛いとも。
いつから見るようになったのかと聞くと、自宅裏の小さな山が、前に来た台風で少し崩れた、そこの真ん中あたりに立っていた せんだんの木、頑張っていたんだが、
ひと月ほど前、倒れたしまった。その頃から見る様になったと云う。
その話を一通り聞いた私は、彼にお願いして、自宅裏を見せてもらった。
なるほど、大きな せんだんの木が傾斜に沿って倒れている。
ふと見ると、先の方の小枝がゆらゆらと揺れているのが見えた。
すかさず、駆け出すと、勢い良く駆け上った。
「おいおい、大丈夫か?靴が泥だらけになるぞ」
彼の気遣う声も気にせずに、その枝先まで来てみた、すると、その下の方に何やら木箱のような物が見える。
古い大量の落ち葉に埋もれたそれは、一部分だけ見えていた。
両手で掻き分けながら落ち葉を払っていくと、やはり木箱?
いや、これは 小さな祠だ。
その頃になると、彼も私の近くに来ていて、驚いた様子で見ている。
長い年月が経っているのだろう、かなり傷んでいる。
彼が下からベニヤ板を持ってくると、そっと慎重に乗せ、ゆっくりと下ろし、ガレージの隅へと置いた。
崩れ掛けた祠の隙間から中を覗くと、何やら木札のような物が見える、
何か書かれていたような跡が見えるが、かすれていて、わからなかった。
とにかく、とんでもない物を見つけてしまった。
近くに神社があるから、今度聞いてみるよと、彼が困惑した顔で言った。
それを聞いて、それが良いと言い残し、私は帰路に就いた。
後日、彼から連絡があった。
その日の晩、丁度 地区の寄り合いがあったらしい。
その時に、集まった皆にこの事をきいてみたそうな 。
只、既に世代交代が進んでいいる為、この事については全く知らない連中の方が
多かった。
その中でただ一人、年長の老人が、幼い頃、祖父から聞いた話として、記憶を辿りながら話してくれたと云う。
当時、まだこの地区が村だった頃、日照りが続くと、手間暇掛けて育てた農作物が、
一瞬で駄目になってしまった。
その頃の村には、小さな小川と井戸が一つしかなく、このような日照りが続くと、
いつも、干上がり、その度に、裏山の反対側を流れる沢の水を、村中で汲みに行っていた。
そこで、ある時、村人の一人が、提案した。
裏山に流れる沢の水を、こちらに引き入れてはどうかと。
大変な労力だろうが、いつもこんな目に合うならと、彼の提案にのったそうな。
その日から、農作業を早めに切り上げ、用水路建設に励んだ。
溝を掘り、石垣を積んだ。
何年か掛ったが、やっと出来た用水路、
この水が枯れないようにと、地元の神社から水神様を借り、裏山のてっぺんに
収めたそうだ。
年月が経ち、この地区にも町水道が引かれ、用水路はお払い箱となる。
そして、代が変わり、その事も忘れ去られてしまった。
多分、その時の水神様ではないかと、老人が話してくれたそうだ。
思いがけず此の地区の歴史に触れた友人達は、次の日、神社に行き、
事の次第を説明して、丁重に返納した。
彼の夢だが、その日以来、一度も見なくなったそうだ。