塩の道 宮本常一 講談社学術文庫
文庫初版 1985年 もともとの初出は1979年ごろ

著名な民俗学者であった宮本常一の著作。
日本における塩の製造および流通そしてその文化的背景及び影響を語った「塩の道」
稲作など食べものの耕作方法と調理方法そしてその背景・影響について語った「日本人と食べもの」、さらに生活の方法例えば畳や荷物の運び方(牛・馬)とその背景・影響について語った「暮らしの形と美」の3篇からなる。
 
特に小生の興味を引いた話を上げると
・塩は神にまつられた例がない なぜなら塩はエネルギーにはならないからだ
・馬は夜、馬舎が必要だから、塩の運搬には使われず牛が使われる
・日本では馬には乗らない
・江戸時代に継馬という制度があって、馬を乗せ換えて荷物を運ぶ。荷主がついていなくても、板橋から東北の久慈まで、箪笥が傷もつかずに届く
・江戸時代鎖国ができたのは食料を自給自足できる生産力があったから
・日本は耕作する人と戦争する人が違ったから人口が減らなかった
・発酵食品→壺の発達→「たが」の技術の流入による桶・樽の利用→杉と竹のある関西で酒の醸造が発達→江戸に売られる→桶樽を返さないから江戸で余る→野田の醤油・練馬の漬物などが発達
・畳の発明→座って食事をする→立ったり座ったりしにくい→取り分けのできるテーブルではなくお膳になる→すでに取り分けられた個人の食事(この発展形が幕の内弁当)→箸椀も個人の所有になる(ナイフフォークに個人のものという概念はない)
・わらの加工など日本の分化は「軟質文化」=刃物を使わない 糸を紡ぎ織物を織る まず毛皮の加工から始まる西洋文化
 
などなど枚挙にいとまがない。騎馬民族が支配階層だけに入ったことを、馬の使い方乗り方から明らかにしていくなど、生活の一つの道具、手順などを取り上げ、それらを複数紡ぎあげて日本文化・価値観そして日本人の特徴を描き出す、その作者の観察眼・洞察力は見事としか言いようがない。
 
自分がこういうことが好きで、こういうことをやりたいのだと改めて確認する。今新しく始めた仕事もこの方向だし、そもそも社会人になってしばらくして、これが自分の仕事だと思ったものも、このようなものだった。(広すぎでそれだけをすることはできなかったけど) こんな風に各地を回りながら、事実を収集してその共通点(背景)を探ることができたら、どんなにか楽しいだろうか。
 
同じ作者の「日本文化の形成」もツンドクの中にあるので楽しみ。
 
★★★★★★
(乱発気味)
 

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