向田邦子のエッセイ集 眠る盃
1979年の初版単行本
作者の住所や電話番号まで印刷してあり、直筆で一言添えてある。向田邦子のエッセイそのものももちろん好きだったのだが、このハガキ欲しさに買ったとも言える。
本を売る時には気をつけましょう、という教訓と共に、電話番号まで書いてある、この時代は、まだ、のんびりとした時代だったのだなぁとも思った。
もっとも、読み進めるとエッセイの中に、読者から電話がかかってきたという話もあって、電話帳が機能していた時代だったのかな、とも思った。
本はやはり素晴らしい。日常の断面を鮮やかに切り取る。そしてその短いエピソードで、登場人物が生き生きの目の前に現れる。ショートショートのように、最後の一文で落とすようなものも含め、その構成も素晴らしい。
せいぜい五ページぐらいのエッセイを何度も読み返してしまう。ホテル・オークラ近くの道で、金襴緞子の布団の上で座っていた祖母の話など、そんなことが起きうる「昭和」の時代、自分もそこを生きたのだが、が懐かしく、羨ましく、痛切にそこに戻りたいと思ってしまう。
(金襴緞子の話は自分が生きた時代の前の「昭和」だが)
最近、仕事をしていても、楽しくもなく、ストレスばかり溜まる。このコロナ感染が広がる中で、週に二回は電車通勤しなければならないことも嫌でたまない。
もう仕事を辞めて、アルバイト程度の小遣い稼ぎだけのセミ引退生活に入りたいと痛切に思う。
★★★★半
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