斎藤美奈子の「日本の同時代小説」で読んで赤木智弘が面白いと思って購入した
赤木智弘 「若者を見殺しにする国」 朝日文庫
 
 
主張はバブル崩壊後、そこまでの右肩上がりの経済成長が崩れて、成長を維持するために規制緩和を行い、非正規労働者を許可するなどという政策が実行されたが、それは結局バブル崩壊時に就職期を向かえた団塊ジュニアを貧困に押さえつけるものであり、
すでに正規労働者となっていたバブル以前の人々をその位置に固定するものである。
 
維持されている平和は現状の社会階層を固定させて維持されているのであり、平和である限り若者は這い上がることはできない。ただ、のたれ死ぬのを待っているだけである。
 
それは努力するしないの問題ではなく構造的問題である。
だから、戦争しかない。戦争は社会を流動化してくれる。同じ死ぬのにしてもお国のために死ぬのなら、誇りを持てる。
 
こんな感じ。若者がなぜ右傾化するのか。
左翼ではなく右翼に流れるのかが分かる気がする。
(結局左翼は正規労働者を支援しているだけだ、とのこと)
 
彼の主張に全面的に同意するわけでもない、でも言っていることは今の社会を見る切り口として鋭いし、そういう考えを持っている人は一定数いるんだろうとも思える。
 
ひょっとすると韓国で今起きていることもそんな要因からなのかもしれないとも思える。
 
また、今限界を露呈しつつあるグローバリズムについても、
「「グローバルリズム経済」というのは、全世界的に「金を唯一の評価軸にしよう」とする経済潮流のことです。」と書いている。
 
解決策として、流動化させればいい。
つまり富の再分配をすれば解決する。
 
でも、振り返ってそれを自ら進んでしようとは思えない。そういう自分がここにいる。
社会でもそれが大多数だから変わらない。
 
その、メンタリティはどこから来るのだろう。
小泉改革以降 あまりに自己責任という概念が広がって、それにとらわれてしまっているのだろうか?
作者は「この社会にポストバブル世代の弱者を救うという意思自体が存在していないことが問題ではないか」
と書いている。
 
こないだの震災ではどうだったか、と思った。
震災では相互扶助が起きていた。
並んで食料の配給を受け、病人子供を先にするという美徳が報道された。
ボランティアもたくさん行った。
 
でもこれは自己責任ではないから、優しくなれるんだ、多分。
被災者には責任はない。犠牲者だから。
 
この点で、赤木智弘が正しい。
本の中に難病の子供への支援はするのに、若者への支援はしないという話が出てくるが
これも同じだ。彼らは分かりやすい犠牲者だから。
 
団塊ジュニアが出産期になったら出生率が上がるから大丈夫だと政府が思っていて、上がらなくて少子化対策が遅れた という話を読んだことがあるが、作者の言っていることもその背景にあるのだろう。
 
最後に作者は「思いやり」という単語を出してきて、(あとがきで自虐しているが)
まだ、人間を信じている様子を見せている。
それにどう答えられるだろうか。
 
と言っても初出は2011年、中に再録されている「「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳、フリーター。希望は、戦争。」は2007年で、もう10年以上経っているのだが。
 
★★★★半