草薙の剣 橋本治


作家デビュー40周年作品だそうで、デビューの桃尻娘を知っている私としては隔世の感があります。
私にとっては橋本治は「花咲く乙女たちのキンピラゴボウ」であり、あのマンガ論は秀逸だった。

この作品は戦後昭和から平成が終わろうとする現在までの普通の日本人を描く。
社会的政治的事件(各種猟奇的殺人事件や総理大臣・自然災害)や時代を表す言葉(バブル・世紀末)などをちりばめながら、時代を、人を描いていく。

10歳ずつ違う6人の男性を中心にその父母祖父祖母を絡ましていく。分かりやすいように父母祖母には名前を付けずに、その6人の男性の父母のように語られるのだけれど、やはりわかりにくい。時系列を追うから、6人入り替わって出てくるのだけれど、しばらくは分からない。

その時代のかなりの部分を体験している自分としては、とてもよく特徴をつかんで描写しているし、事件のピックアップもうまいと思う。

でもこんなに時代を理解していて、その底辺にある心の動きとか価値観の変化とかをわかっているなら、それを小説にせずに、社会学の論文として発表してもらったら、もっとよく理解できて、今現在がなぜこうなっていて、だからどうしたらいいということが、広く人々に理解してもらえたのではと思う。

多分小説を書く人としてはあまりに頭がよすぎて、科学者としては余りに感情移入しすぎるのだろうか? でも、ぜひ論文を読みたい。

★★★半