憎い奴 崔 文洙 | 古今亭志ん輔 日々是凡日

憎い奴 崔 文洙

sinsukeのブログ

オーケストラ、特に民間オケにとって、その後援者は大事な大事なお客様だった。新日本フィルハーモニー交響楽団もそのひとつ。毎年サポーターズパーティーを開いて、団員とお客様の交流を図っていた。一流のアーティストも、この日ばかりはと思い切り羽を伸ばした。サービスに、普段やらない演奏もやっていた。ウケにウケた団員たちの裏芸は、時として暴走しがちだった。いつしか、パーティーは大学時代の悪ふざけの連続になりつつあった。今年のサポーターズパーティーは、始まりから違う雰囲気が漂っていた。楽しくくつろぐお客様と団員との関係は変わらぬものがあったが、いい感じの緊張の糸が、どこかにピンと張っていた。お客様を取り込んだクイズ大会など諸々のコーナーが終わって、パーティーは大詰めを迎えていた。各セクションの演奏が始まった。バケツを叩いての打楽器演奏には、場内から大きな拍手が送られていた。フルート&ギターの演奏も終わって、仕舞いは弦楽器だった。静かに始まった演奏は、この手のパーティーには似合わなかった。一旦はざわめき始めた場内が、段々〆って来ていた。酔っ払い達は演奏に聞き入っていた。弦楽器の周りに人々が集まって、円陣を作っていた。ヴァイオリン、ヴィオラ、全員の弓が空に半円を描いて演奏が終わった時、場内に緊張が走った。割れるような拍手が起こったのは、その直後だった。「お祭騒ぎのパーティーですからね、なんだっていいんだけどさ・・・」こう言ったコンサートマスターの崔文洙さんは、満足そうに照れていた。