胸の重み
学生時代、京都で下宿していたときのこと。
二回生か三回生だっただろうか
(関西では、大学では「○年生」でなく「○回生」
ということが多かったように思う)。
ある夜、ふとんで寝ていて、胸のあたりが息苦しくて
目が覚めた。
僕は声を上げそうになった。
お、おばあさんが僕の体の上に乗っている。
いや、乗っているというより、体の上で座っている
というか、しゃがみこんでいる。
見覚えのない、老婆だった。
でも、力を振り絞っても、声が出ない。
声が出ないどころか、体がピクリとも動かない。
金縛りだな。僕は思った。
それまでにも何度か、金縛りにあったことはあった。
しかし、老婆は初めてだ。
むちゃくちゃ恐かった。
恐かったはずだが、老婆に負けちゃいかん、とがんばった。
俺はこんなことで死ぬはずがない。
こんなことで死ぬように、生まれてきちゃいない。
と自分に言い聞かせて、
何かできるものなら、やってみろよ、
恐ないぞ、お前なんか恐ないぞ。
心の中で精いっぱい、老婆に向かって叫んだ。
金縛りはどれくらい続いたのだろう。
十分か十五分か、一時間か二時間か。
自分ではまったくわからない。
気がつくと、朝になっていた。
いつの間にか寝てしまったのだろう。
僕の体は何ごともなかったように、軽くなっていた。
手も首も足も、ふつうに動かせる。
胸が痛いということもない。
あれは、夢だったのか。いや、違うと思う。
夢よりもリアルな印象が残っている。
びっしょり、ふとんが重たくなるほど、寝汗をかいていた。