熊の親子は幸せだった。
いつでも一緒で、幸せだった。
とうさん熊はたくましく
母熊、子熊に頼られて。

かあさん熊は笑ってばかり
陽気におなかをふるわせて
にっこり、にこにこ暮らしてた。

子熊はだから
すくすく育ち
野原の花とも友達で
風や星とも友達で
とうさん、かあさん大好きで。

ある年
雨が少しも降らず
森が悲鳴をあげていた
熊の一家も困りはて
とうさん熊は決意した。

人間がいる里まで行って
なんでもよいから貰ってこよう

人間はこわいって
ひどい目にあわされるって
かあさん熊は反対したが
大事にしていた蜂蜜もついに残りがわずかとなって
泣きながらとうさん熊に従った

とうさんは賢いから
きっときっと大丈夫
情けのある人間ならば
リンゴのかけらくらい分けてくれるかも知れない
かあさん熊は自分に言い聞かせた

無事に帰ってきますように
母熊、子熊は祈って送った

とうさん熊は注意を払い
のっそのっそと里へと向かった

ところが里まで近づくと
「熊だ、熊だ」
と大騒ぎ。
とうさん熊はあわてて森に引き返そうと
くるりと背中を向けた途端
ズドンと大きな音がした。

とうさん熊は気づかなかった
我が身に起きた出来事が
動けぬからだで考えた
かあさん熊は優しくて
子熊はなんとも愛らしい

楽しく暮らした一生が
はやてのように駆け抜けた

空に黒い雲が出て
雨が葉っぱをたたきつけた
かあさん熊にはすべてが分かった
雨を喜ぶ子熊を抱いた
しっかりしっかり抱きしめた

ひとりで行かせてしまったことを
とうさん熊にわびながら
かあさん熊は自分を責めた
毎日毎日、自分を責めた

かあさん熊は笑いを忘れ
過ぎた時間をなでさすり
静かに静かに生きていた

子熊はやがて大人になって
とうさん熊にそっくりな
立派な熊に成長した

そしていつしか
恋をして
お嫁さんを連れてきた
キラキラ光るいのちが生まれた

かあさん熊は
昔のように笑ってみたいと考えた

とっても遠い道のりだったが
とうさん熊と一緒になって
にっこり
にこにこ生きていた
自分の姿を懐かしみ。