「セミ」 まど・みちお

 土の中から けさ でてきて    
 もう セミが うたえている    
 ならったことも ない          
 きいたことも ない    
 とおい そせんの日の うたを   
 とおい そせんの日の ふしで       

  たいよう ばんざい ざいざいざい    
 たいよう ばんざい ざいざいざい                
 
 うたは もえて もえて   
 こずえへのぼり くもへのぼり      
 くも つきぬけて そらへと のぼり
 たいようの てに すくわれて    
 そのゆびに あそんで ちりこぼれ   
 きらめきながら      
 ゆらめきながら   
 またふるさとの うみやまかわへと   
 しんしん しんしん まいおりてきて   
 土の中へと しみとおっていく    

 とおい しそんの日の なつにも   
 とおい しそんの日の 天へと
 また もえのぼって いきたくて         

 たいよう ばんざい ざいざいざい             
 たいよう ばんざい ざいざいざい


 ●ああ。母が恋しいなあ・・・母がいた日の夏、母がいた日の空・・・。おかあさんが恋しい。