九州は全域が梅雨入りだそうだ。
 私の生まれはこの月で、祝いに浴衣ばかりもらったらしい。それをほどいては、おしめにしたと母が言っていた。

 故郷は鮎で知られる。もう昔のようではないが。観光客をひきつけるのは、鵜飼。子供の頃はみるたびに、鵜がかわいそうだと思ったけれど。焼いた鮎を起こし、箸を背中に何度か押しつけ、しっぽからするりと骨を抜き取る・・・と、たいてい「ほう」と声があがる。私の故郷では当たり前のことだけれど。
 いつか・・・料理屋で小さな鮎がてんぷらで出てきて、驚いた。こんなちいさなものを、わざわざ食べなくてもと。都会では、でもそれが極めつきの走りの味で、きっと値も張る逸品なのだ。

 雨が続くと、ウサギでもあるまいに、憂さ憂さする、わな。その憂さを晴らす香りのひとつが、季節ものの「若鮎」だから。

 この時期、ミョウガもいいな。食べ過ぎると・・・私はだれ? ここはどこ?

 いつだって、楽しみはあるわけだ。その気になれば。
 
 

 したたり止まぬ陽の光、
 うつうつ回る水車
 

 6月の手紙、文例は
 「いよいよの梅雨、皆様方にはおさわりなきことと存じます」
 「こちらも雨が降り続くようになりました。でもあじさいが咲き、梅の実が太っていく梅雨を、やはりいいもののように思います」
 
 
 丸善の二階、「理文路」という喫茶店で、飽くことなく行きかう人のいろとりどりの傘の色を眺めていた。この時期の、私の定番の過ごし方だった。


 雨の日は、雨を見るに限る。