「春を恨んだりはしない/眺めとの別れ」(ヴィスワヴァ・シンボルスカ 沼田光義訳)


 またやって来たからといって 春を恨んだりはしない
 例年のように自分の義務を 果たしているからといって
 春を責めたりはしない
 
 わかっている わたしがいくら悲しくても そのせいで緑の萌えるのが止まったりはしないと
 草の茎が揺れるとしても それは風に吹かれてのこと
 水辺のハンノキの木立に ざわめくものが戻ってきたからといって
 わたしは痛みを覚えたりはしない
 
 とある湖の岸辺が 以前と変わらず──あなたがまだ
 生きているかのように──美しいと わたしは気づく 
 目が眩むほどの太陽に照らされた 入り江の見える眺めに
 腹を立てたりはしない
 
 いまこの瞬間にも わたしたちでない二人が
 倒れた白樺の株にすわっているのを 想像することさえできる
 その二人がささやき、笑い 幸せそうに黙っている権利を
 わたしは尊重する
 
 その二人は愛に結ばれていて 彼が生きている腕で
 彼女を抱きしめると 思い描くことさえできる
 葦の茂みのなかで何か新しいもの 何か鳥のようなものがさらさらいう
 二人がその音を聞くことを わたしは心から願う
 
 ときにすばやく、ときにのろのろと 岸に打ち寄せる波
 わたしには素直に従わないその波に 変わることを求めようとは思わない  
 森のほとりの
 あるときはエメラルド色の あるときはサファイア色の
 またあるときは黒い 深い淵に何も要求しない
 ただ一つ、どうしても同意できないのは 自分があそこに帰ること  
 存在することの特権──
 それをわたしは放棄する
 
 わたしはあなたよりも十分長生きした
 こうして遠くから考えるために
 ちょうど十分なだけ