隣の家の穀倉(こめぐら)の裏手に
臭い塵溜(はきだめ)が蒸されたにほひ、
塵塚のうちにはこもる
いろいろの芥(ごもく)の臭み、
梅雨晴れの夕をながれ漂つて
空はかつかと爛(ただ)れてる。

塵溜の中には動く稲の虫、浮蛾(うんか) の卵、
また土を食む蚯蚓(みみず)らが頭を抬(もた)げ、
徳利壜(とっくりびん)の虧片(かけら)や紙の切れはしが腐れ蒸されて
小さい蚊は喚(わめ)きながら飛んでゆく。

そこにも絶えぬ苦しみの世界があつて
呻(うめ)くもの死するもの、秒刻に
かぎりも知れぬ命の苦悶を現(げん)じ、
闘つてゆく悲哀(かなしみ)がさもあるらしく、
をりをりは悪臭(をしう)まじる虫螻(むしけら)の
種々のをたけび、泣声もきかれる。

その泣声はどこまでも強い力で
重い空気を顫(ふる)はして、また軈(やが)て、
暗くなる夕の底に消え沈む。
惨(いたま)しい「運命」はたゞ悲しく
いく日いく夜もこゝにきて手辛(てがら)く襲ふ。
塵溜の重い悲しみを訴へて
蚊は群(むらが)つてまた喚く。

(川路 柳虹)
19歳で著した作品。