イトウさんは、毎週金曜日の夕方、注文した本を受け取りにくると言う。毎週、同じ本を注文し、毎週同じ日に買いにくる。
 もうこれは随分お買いになっていますよ・・・と注文のたびに告げてはいるが、認知症があるらしく、本人は一向に覚えがないと、毎週毎週、一冊の文庫本を買いに来て、家には40~50冊は溜まっているはずだ・・・。
 本屋の客もいろいろと、昨日息子に聞かされた。

 「700円で、このくらいのサイズの本はありませんか?」と手で大きさを示す客。
 「どういった関係の本で?」
 「じゃあ、いいや。800円で、もう少し大きい本は?」

 パソコン関係の本を買った初老の男性は、全然役に立たなかったと文句を言いに来た。
 「買ったけど、できないじゃないか」
 「近くに大手家電品店がありますから、そちらにいかれてはいかがですか?」
 「そういうことじゃないだろう。扱っている商品には責任を持つべきだ。パソコンの本を扱っているなら、パソコンのことくらいよく知っていて当たり前、それがサービスというものではないか?」
 普通の本屋でこんなこと言われたら、何も売れなくなってしまう。

 「ホテルで女性が殺される本をください」
 「作者はわかりますか?」
 「誰でもいいです」

 勤める本屋は2階がレンタルビデオとなっている。そこでのクレーム。
 学生が借りたDVDを二ヶ月余り延滞し、ようやく返しにやってきた。延滞金は約16000円。これで済んだはずだった・・・が父親から電話があったという。
 「息子はひとり暮らしで、仕送りしているんですよ。延滞金が16000円!それじゃ、仕送り額もこれから考えなきゃならないでしょう!」
 まけてくれと言うのかな・・・と次の言葉を待ってると
 「返しもしなければ、延滞金も払わない、そういうヤツだっているでしょう。絶対、いるはずじゃないか。なのに、息子は、DVDを返した上に、16000円も払ったんだぞ。これは、どうにもおかしいじゃないか」

 「・・・」

 「こうしよう。16000円払ったことはなしにしてくれ。それから借りたDVDも返さなかったことにしてくれ。DVDを貰いに行くから、16000円も返してくれないか」

 「・・・」

 「訴えてやる」と電話は切れたそうだ。

 相変わらず、イトウさんは今週も、ニーチェの文庫を買いに来るんだろう。