私にしては珍しく、泊まりがけで出かけてきた。それも、由緒正しき、老舗の旅館で一晩をゆったりと過ごさせてもらった。
 
 昨日。駅に着いたのは12時半を回る頃。友人が手を振って出迎えてくれた。手を振るっていいなあ。「やあ」「ひさしぶり」「待ってたよ」開いた五本の指が語りかけくれる。
 改札口から腕を上げて振り返す。「こんにちは」「お出迎えありがとう」。

 樹齢3000年という大きな大きな楠が、3本もある町。あまりの大きさに、視界にとらえながら、それと気づかなかったほどの巨木である。大切に守りぬかれて、大きな枝を空高く張り出している。雨を受け、葉っぱは緑を濃くしている。なんと雄大な姿だろう。傘の中から見上げながら、3000年というときの流れに思いを馳せてみる。合わせ鏡のように人間の一生にも思いがいく。
 
 私たちは、なんと大きな世界に包まれて生きていることか。縦軸も横軸も無限に近い。永遠の中にある。それを枠と呼んでいいのかわかりもしないが、その中に確かに在るということの不思議。その中で手を振り合うことの不思議。

 今日、午後1時50分発の列車で帰路に着いた。
 お別れも、二人の友人たちと手を降り合った。「またね」。五本の指がいっぱいに、再会があることを告げるのだ。
 大きな世界で出合ったんだな。こんな小さな人生とやらに、いくつもの試練は来るけれど、きっとそれよりたくさんの数、手を振ったに違いない。
 
 ありがとう。