おはよう。
もうすぐ、父の命日が来る。
私の気持ちは、いまだに父によりも、母の方へと大きく傾いているのだが、父が愛情を注いでくれたことには間違いはない。
もうすぐ、父の命日が来る。
私の気持ちは、いまだに父によりも、母の方へと大きく傾いているのだが、父が愛情を注いでくれたことには間違いはない。
母が亡くなってどれほど経った頃だろうか。
町内の老人会で小旅行が催された。その頃、失禁をするようになっていた父だが、ぜひにも参加したいと言った。私は旅行かばんや衣類の支度を整え、失禁用のパンツも用意した。それでなんとか、一泊の旅行はしのげるはずだった。
町内の老人会で小旅行が催された。その頃、失禁をするようになっていた父だが、ぜひにも参加したいと言った。私は旅行かばんや衣類の支度を整え、失禁用のパンツも用意した。それでなんとか、一泊の旅行はしのげるはずだった。
ところが、帰ってきた父が、行くのではなかったと小さな声で言う。うちひしがれた様子に心中ただならぬものを感じた。聞くと、旅行の最中、失禁の度合いがひどく、皆の前で、それが露になったらしい。
じっとうなだれている姿は、哀れですらあった。私はどうしていいか分からなかった。
じっとうなだれている姿は、哀れですらあった。私はどうしていいか分からなかった。
その時、一緒にいた弟が号泣したのである。
「悔しい、悔しい」と畳を叩いて泣くのだ。父の気持ちを察して、弟は我が事のように涙に暮れた。
その優しさは、私を圧倒した。
無念に終わった小旅行も契機となって、それからしばらくすると、頑に拒否していた父もようやく病院で検査を受ける気持ちになった。失禁程度と、軽く見ていたのと大きく違い、内臓の各所に異常が認められた。即刻の入院。完治は無理だという医師の言葉。父に内緒で呼び出された私たちは、万一の場合、延命措置をとるかどうかを聞かれた。
呆然と、その意味を捕まえた。
何も知らない父は、看護士相手に軽口など叩いている。回復するものと信じている父にどういう顔で接すればよいのか。父には手が届いても、父のいのちには手が届かない。
無力であることが、身にしみた。
「悔しい、悔しい」と畳を叩いて泣くのだ。父の気持ちを察して、弟は我が事のように涙に暮れた。
その優しさは、私を圧倒した。
無念に終わった小旅行も契機となって、それからしばらくすると、頑に拒否していた父もようやく病院で検査を受ける気持ちになった。失禁程度と、軽く見ていたのと大きく違い、内臓の各所に異常が認められた。即刻の入院。完治は無理だという医師の言葉。父に内緒で呼び出された私たちは、万一の場合、延命措置をとるかどうかを聞かれた。
呆然と、その意味を捕まえた。
何も知らない父は、看護士相手に軽口など叩いている。回復するものと信じている父にどういう顔で接すればよいのか。父には手が届いても、父のいのちには手が届かない。
無力であることが、身にしみた。
亡くなって、早や8年が過ぎようとしている。
この期に及んでもなお、父を疎んだ思春期を後悔をもって振り返ることがある。
この期に及んでもなお、父を疎んだ思春期を後悔をもって振り返ることがある。
葬儀の日、小雨の降る中、寺の境内には紫紺の菖蒲が凛とした様子で咲いていた。父は大きな苦しみもなく、安堵の表情で逝った。
菖蒲の花をみかけると、父のやすらかな顔を思い出す。同時に弟の、あのときの優しさが胸に蘇ってくる。
菖蒲の花をみかけると、父のやすらかな顔を思い出す。同時に弟の、あのときの優しさが胸に蘇ってくる。
遅ればせながら、大事に育ててくれてありがとう。5月の風が、言葉を空に運んでくれますように。