「君知るや、レモンの花咲くかの国を。
 小暗き葉陰にオレンジは熟し、
 そよ風は碧き空より流れきて、
 ミルテはひそやかに、月桂樹は高くー」(ゲーテ/「ミニヨンの歌」)

 そんな詩に憧れて、レモンの木を植えてはいるが、なかなか大きく育たない。ひざ丈ほどの小木に、小さな棘。これが大きくなって、レモンが実るまでどの位の年月がかかるのだろう。

「君知るや、かの国、
 いざかの国へ、恋人よ、
 いざかの国へともにいかまし」

 ”かの国”の風景は、いつの日か現れるのだろうか。”恋人”はそれまで待っていてくれるだろうか。
 
 
 どこか、遥かなる地。屹立する断崖。青い日のある時、眩惑されるままに落ちた記憶。波は白くしぶいていた。落下とともに、私は波間を漂った。揺られながら、揺れながら、私は空を仰ぎ見た。鳥達は飛び去り、紺碧の空には、真夏の雲だけが残った。私はまた、その雲より高く立っていた。波に漂う私を見ながら。
 君知るや、レモン花咲く南の地。
 私はそこで、波にゆらゆら揺れていた。空の果てにも立っていた。