おれよりも泣きたいやつが
おれのなかにいて
自分の足首を自分の手で
しっかりつかまえて
はなさないのだ
おれよりも泣きたいやつが
おれのなかにいて
涙をこぼすのは
いつもおれだ
おれよりも泣きたいやつが
泣きもしないのに
おれが泣いても
どうなりもせぬ
おれより泣きたいやつを
ぶって泣かそうと
ごろごろたたみを
ころげてはみるが
おいおい泣き出すのは
きまっておれだ
日はとっぷりと
軒先で昏れ
おれははみでて
ころげおちる
泣きながら縁先を
ころげおちる
泣いてくれえ
泣いてくれえ

(石原吉郎/未刊詩篇から/『石原吉郎詩集』思潮社)