マイケル ドリス/灰谷 健次郎訳/新潮文庫 1996

イメージ 1 まるで東の空を向いて、太陽に早く出て来てとお願いする花のような早起きの少女。だから、名前は「モーニング・ガール」。母の名前は「シー・ウィンズ・ザ・レース」(駆けっこに強い人)、父の名は「スピークス・トゥー・バーズ」(鳥と話す人)、弟は「スター・ボーイ」(星の子)。

 自然を畏敬し、自然から学び、自然の中で暮らす彼らにとって、名前はまさにシンボル。真に美しく強いものが、自然から生まれてくる様を、島の少女と少年の目を借りて、作者は繊細に描き出して行く。
 文明の遠く及ばない島。そう表現するほうが私たちには分かり易いだろうが、裏返って、文明とはなにか、私たちの存在とはなにかという問いが込められている。
 自然の中にあって、自我の成長は西洋的なエゴの台頭とは大きく異なる。死者と会話したり、大地の激しい息づかいを聞きながら、モーニング・ガールは輝くばかりの太陽のエネルギーの中で、スター・ボーイはきらめく星のエネルギーの中で、夢見る頃を育って行く。神々の懐に抱かれた生活の中で見出す、易しいながら深い哲学。

 ところが最後のページまで辿り着いた時、私たちは深いため息をもらさずにはおれない。まるで自分自身がモーニング・ガールやスター・ボーイの気分で味わっていた熟れた果実を野太い手で叩き落とされたように・・・。
 「人が人になる書、人が人に近づく書」。訳者は後書きでそう述べている。アメリカ先住民の血をひく著者の一冊。