『突然僕にはわかったのだ』 

僕は待っていたのだ
その古めかしい小さないすの上で
僕は待っていたのだ
その窓の死の平和のなかで

どれほど待てばよいのか
僕はかつてたれにきいたこともなかった
どれほど待っても無駄だと
僕はかつて疑ってみたこともなかった

突然僕にはわかったのだ
そこで僕が待っていたのだということが
そこで僕が何を待っていたのかということが
何もかもいっぺんにわかってきたのだった

けしに吹くかすかな風や
煙突の上の雲や
雨の中に消えてゆく足音や
恥多い僕の生涯や

何もかもいっぺんにわかったとき
そこにあなたがいたのだった
パリの少年のように気難しい顔をして
僕の左の肩に手を置いて

     黒田三郎(「ひとりの女に」から)