点燭
燭を点ずることが 儀式の拡充である時期をここに終る。あきらかに燭の意味が終るのは それが点ぜられるときである。すでに点燭をもって いかなる意味の端緒ともなすことなく 点燭をしてそれ自身の無意味さの故に その位置に佇立させることは もはや儀式の日の倫理である。たとえ点燭とともに ひとつの 暗黒が終ろうとも われらに終りを告げたのは 点燭であって暗黒でなく たとえ燭から燭へ重ねて灯を継ぐことがあるにせよ すべて終焉したものを単独に列挙することでしかない。たとえば燭へ引き継いで行く夜明けのようなものが やがて華麗な合唱へ立ちのぼることがあるにせよ われらにとってそれは点燭の終了である。点燭をしてかならず序曲たらしめるな。蝋涙は垂れるにまかせ われらは鐘鳴のようにここに立つ。いわばこの位置のみが儀式の倫理である。われらものごとの始まるや終る その位置から他へついに出て行くことはない。
石原吉郎「一枚の上着のうた」から(石原吉郎詩集/現代詩文庫)
燭を点ずることが 儀式の拡充である時期をここに終る。あきらかに燭の意味が終るのは それが点ぜられるときである。すでに点燭をもって いかなる意味の端緒ともなすことなく 点燭をしてそれ自身の無意味さの故に その位置に佇立させることは もはや儀式の日の倫理である。たとえ点燭とともに ひとつの 暗黒が終ろうとも われらに終りを告げたのは 点燭であって暗黒でなく たとえ燭から燭へ重ねて灯を継ぐことがあるにせよ すべて終焉したものを単独に列挙することでしかない。たとえば燭へ引き継いで行く夜明けのようなものが やがて華麗な合唱へ立ちのぼることがあるにせよ われらにとってそれは点燭の終了である。点燭をしてかならず序曲たらしめるな。蝋涙は垂れるにまかせ われらは鐘鳴のようにここに立つ。いわばこの位置のみが儀式の倫理である。われらものごとの始まるや終る その位置から他へついに出て行くことはない。
石原吉郎「一枚の上着のうた」から(石原吉郎詩集/現代詩文庫)