この頃は、しきりと故郷を思い出すのだが
それが
斜向かいに暮らしていた
足の悪いおめかけさんだったり
通ってくる小柄な初老の男だったり
45度のお辞儀を手本に見せる小学教師だったり

と、まるで要領を得ないのだ

母の着古した銘仙の
その柄なんかも唐突に

春には桜の散歩道
夏には川の水切遊び
秋にはお寺の大銀杏
冬にはザクザク霜柱

そんな故郷の風景に
いつまでたてどもたどり着きはしない

ただのっぺらぼうの景色の中で
半襟をかけたおめかけさんの細い首筋や
ハイヤーでやってくる町医者の白麻のスーツや
悪意のこもった教師の目つきばかりが
妙にくっきりと甦るのだ

山あいの小さな町で
息をひそめるように
生きていた人たちの
誰ともない悲しさ
誰ともない切なさが
今もわたしのなかに
漂っているように