…あのねえ、
このはなしは、
あたしのたからものなの。
だから…ね、
そういうつもりで、聞いてくれる?
…あのひの夜には、
月が明るくて、
ひとがあまりいなくなった、夜の階段広場は、白い舞台みたいで、
あたしは、
ひとりで、女優のまねをしてあそんでいたんだ。
あ、わたし、女優にもなりたかったの。
もっと器量がよくて、家柄とか、そういうのがよければよかったんだけど、
幸か不幸か、この神殿に置いておかれた子どもだったので。
赤ん坊だったら、だれかにもらわれたんだけど、
もう話せるくらいになってたので、神殿にいる子、になっちゃった。でも、悪くないでしょ?あたしんち、神殿!だもんね。
…まあ、そんなことはいいや。
ともかく、あたしがそこをあるいていると、
だれか男のひとが来たんだよね。
なんていうか、
顔小さいし身体細いし、
妖精みたいに動きがかるくて、
そんなひと、
みたこともない、
初めてこんなひとを見たわ…と思った。
そのひとは、
わたしのところに階段を駆け上がってきて、
『神託を』
と。
わたしは、
『汝の為すべきところを為せ』と答えた。
で、
そのひとは、
…たぶんあたしと変わらない15かそのくらい男の子は、
なにかに打たれたみたいな、
悲しそうな、顔をしてね。
そのまま、かえりかけたんだけど、
途中で腰を下ろしちゃったから、わたしはそばにいって、隣にすわってみた。
で、
すこし身体がふれたとき、
いろいろなものが、見えました。
そのひとはね、
身分の高いおうちの人で、
こんど、長としての立場につかなければならないし、決められた結婚にも同意しなければいけなくて、
自分の意志でなにかを選べるって状況じゃなくて。
それはもう、うまれたときから、そんな感じで。
でも、
そのひとは、
見た目よりもすごく、なんていうかな、フロンティアとかそういう感じの、
熱い性格のようでした。
結婚も、
好きになって恋した人とするのがほんとうなんだって、思っているみたいだった。
ああ、
だから、
あの神託にがっかりしたんだ…。
このひとは、
たぶん、ひとが欲しいとおもうたいていのものを何でも持っているのに、
どうして、
このひと自身が欲しいとおもうものが、手に入れられないんだろう?
そう思ったら、
なんか泣けてきちゃってね。
『わたしはいつもちかくにいる』と、ことばが出た。
そうしたら、
そのひとは、
わたしのことやさしく、抱きしめてくれたんだ。
(つづく)