とある高校のグラウンド、汗を流しながら走り続ける一人の少女がいる。けして速いとは言えないがそのあしどりは止まることはない。
彼女の名前は「林原めぐみ」、つい一ヶ月前まで何のとりえもない普通の子だった。
しかし、彼女の中の「最近でてきた腹の肉をどうにかしたい」「健康な身体をつくりたい」「あと金のかからない趣味をもちたい」という思いが彼女を変えた。
彼女はもともと身体を動かすタイプではなく、どちらかと言えば腐女子で2チャンが大好物であった為、人と馴れ合うのは嫌だった。
彼女は考えた、健康っていえばスポーツだ、一人でできるスポーツと言えば…
………「陸上!!」
でも本格的にやる訳じゃないし、ランニングで良いや。
めぐみ「よーし、明日からランニングするぞ!!」
そういう事で彼女はランニングに関する事を学校のパソコンで調べた。
ランニングに必要な物、準備運動等、頭に詰め込んだ。
その日の夜、初めてのランニングを開始した。
買って来たランニングシューズ、お姉ちゃんからもらったウェア、iPodを持って出発した。
コースは家から学校迄の往復。
学校迄はあっという間についた、音楽を聴いてると、ほんとにあっという間だ。
帰り道、だんだん息が苦しくなってきた、横っ腹がズキズキしてきた、そして足が止まる。
めぐみ「ぜっはっ!ぜっはっ!きついっ!!」
それから歩いてなんとか家まで着いたけど、しばらく動けなかった、日頃の運動不足のせいだ。
初日は正直、きつさだけだった、でも「三日坊主にはなりたくない!!」その思いだけが彼女を支えていた。
次の日もその次の日も走り続け、次第に身体が慣れてきた時
めぐみ「走るって気持ち良い」
めぐみ「日頃溜まっている、せちがらい社会、面倒臭い人間関係、同じ作業の繰り返しによるストレスが消えてゆく」
と彼女は感動した。
めぐみ「はぁっはぁっ、今日はこのくらいにしとこうかな」
家に帰るとすぐにシャワーをあびる、「今日は何だか頭が痛いなっ、風邪かな?まっ今日から2連休だし、大丈夫でしょ」そう思って彼女は毎日の日課の2チャンを早めにきりあげて寝た。
翌日、朝
めぐみ「だるぃ、頭が痛い、身体が熱ぃ、完全に風邪だ。駄目もうしばらく寝よう、寝ればきっと治る」
そして彼女はまた眠りについた、夕方になっても彼女の体調は落ち着く事はなかった。
風邪薬を探そうと1階に降りていく。
めぐみ「おかーさん、風邪ひいちゃったみたい、げほげほっ」
…………………
返事はない。
めぐみ「あれっ?おかーさん?げほっ」
台所を探すが母の姿はない、それどころか父の姿もない、辺りには静寂がただよっていた。
ふとテーブルを見るとご飯と封筒があるのが目に入った、封筒の中には手紙と五千円札が入っていた、手紙には母の筆跡でこう書かれていた。
……………………………………
めぐみへ
先週から言っていたけど、今日から二泊三日で父さんと旅行に行ってきます。よく寝てる様なので、起こさずに行きます。今日の晩ご飯はつくってるからチンしてたべてね。明日からのご飯はこのお金でどうにかして下さい、何かあったら電話するのよ。母より
……………………………………
めぐみ「そっか、すっかり忘れてた、今日結婚記念日かぁ」
手紙をテーブルに置き、薬を探す為に戸棚を調べる彼女。
めぐみ「んっ、あった!」
薬箱を見つけた彼女ではあったが中身はカラであった。
めぐみ「んもうっっ!!」
彼女はテーブルの五千円札を握りしめ、一度自分の部屋に戻ってパジャマの上にコートを羽織った。そして近くのスーパーに薬とお粥を買いに行った、母には悪いが普通のご飯はたべれそうにない。
家に帰り、お粥を食べ、また寝た彼女。
翌日
めぐみ「熱さがんないなぁ、今日も薬飲んで寝よう」
また布団に休む彼女。
次の日
めぐみ「やべっ学校だ、でも熱さがんないなぁ」
1階におり、学校に電話をかける彼女、そしてまた自分の部屋に戻り薬を飲み眠る。
その日の夕方
母「ただいまー」
父「今帰ったぞー」
母「あれっ?おかしいわね、真っ暗よ」
母「めぐみいないのかしら?」
2階に上がって行く母。
母「めぐみーいないのー?」
めぐみの部屋の前に着く母。
コンッ!コンッ!
母「めぐみいるのー?入るわよ!」
ガチャ!
母「めぐみ!いるじゃないの、貴方の事が心配で予定より早く帰って来たのに、もう寝てるの?」
めぐみ「んんっ、あ゛!おがあざん、お帰りなざい」
母「どうしたの?ひどい鼻声よ?」
めぐみ「がぜびいだ」
母「とりあえず熱はかりなさい」
めぐみ「ばい」
ピピピッ!!
母「まぁ、40度もあるじゃない!ちょっとーお父さんめぐみが熱あるから病院行くわよー!すぐに準備して!!」
母「めぐみ、何ですぐに電話しなかったの?」
めぐみ「だっで、ぜっがくのぎねんびなのに、邪魔じだくながっだ」
母「もうっ、ほんとにばかね~あなたは」
父「お~い、準備できたぞ~」
病院
医者「インフルエンザですね、最近流行ってますから、家族の方もうつらない様注意して下さい、お薬だしておきますね」
母「そうですか、ありがとうございます」
一週間後
めぐみ「ん~すっかり良くなったな?」
これでまた走れると思う彼女。
母「結局皆うつっちゃったけどね、はははっ」
母「さて、そろそろご飯食べようか?」
めぐみ「うん」
食卓にて
彼女がぽつりとつぶやく、これが悪夢の始まりだった。
めぐみ「ねぇ、何か臭くない?ご飯今日炊いたの?変な匂いするよ」
母「えー、そんな事ないわよ、たきたてほかほかよ、貸してごらんなさい」
めぐみ「えー、嗅いでみてよ」
母に茶碗を渡す彼女。
母「うん、たきたての良い香り、あんたインフルエンザで鼻がおかしくなっちゃたんじゃないの?明日休みだから病院行ってきなさい」
めぐみ「はーい」
次の日
看護師「林原めぐみさーん」
めぐみ「はーい」
看護師「おはいり下さい」
めぐみ「はーい」
医者「えーとっ、変な匂いがして、頭痛があるんですね」
めぐみ「はい、1週間前にインフルエンザになってそれからです」
医者「念の為レントゲンとりりますねー」
めぐみ「ただの鼻づまりじゃないのかな、おおげさだな」
看護師「こちらへどうぞ」
めぐみ「はーい」
レントゲン室に入る彼女。
看護師「はい、一枚目とりますよ」
カシャッ!
看護師「次、二枚目ですね」
カシャッ!
看護師「では、しばらくあちらでお待ち下さい、お呼びしますので」
めぐみ「はーい」
看護師「先生、林原さんのレントゲンです」
看護師がレントゲンを医者に手渡す。
医者「これは…………君、至急林原に親御さんをお呼びしてもらいなさい」
看護師「はい、わかりました」
彼女のもとに駆け寄る看護師。
看護師「林原さん、先生が大事な話があるので家族の方呼んでもらえるかしら?」
めぐみ「えっ!あっ、はい!」
めぐみ「どうしよう、ひどいの病気なのかしら」
ガクッガクッブルブル。
携帯を取出そうとするが震えて、なかなかうまく取出せない、なんとか携帯を取出し、母に電話をかける彼女。
トュルルルルー
母「もしもしー、どうしたの?病院は終わった?」
めぐみ「お母さん、何かお医者さんが大事な話があるんで来てって」
母「えっ!………とっ、とにかくすぐ行くから待ってて」
携帯をバックにしまった彼女、まだ震えはとまらない、頭は混乱してうまく考えはまとまらない。
そうこうしているうちに母が病院の入口から入って来た。
めぐみ「あっ、おがあざん」
彼女の瞳から大粒の涙が零れおちる。
めぐみ「わだじ……わだじ…………どうなっちゃうのがな?」
母「落ち着いて、大丈夫だから!」
そう言いながら母は彼女を優しく抱きしめた。
母「とにかく、お医者さんにお話聞いてくるから、めぐみはここで待っていて、一人で大丈夫?」
めぐみ「うっ、うん、お母さんと会ったら少し落ち着いた、私大丈夫よ」
まだ足が少し震えていたが彼女は気丈にそう言った、母をこれ以上心配させたくなかったからだ。
母「じゃあ行って来るわね」
受付に向かう母。
母「あのう、林原めぐみの母ですが」
看護師「はい、では奥の方へどうぞ」
奥の部屋
医者「林原さんのお母さんですね、こちらへおかけください」
母「はい」
医者「お母さん、突然の事で混乱されているでしょうが落ち着いて下さい」
母「はい、大丈夫です、先生娘は何の、何の病気なんでしょうか?」
医者「ではこちらのレントゲンをご覧下さい、娘さんの頭部を写したレントゲンです」
医者が機械のスイッチを押すとレントゲンが写しだされる。
医者「こちら、目の横の所ですね、こちらに白い影があるのはわかりますか?」
母「はい、この白いのは何なんですか?」
医者「これはいわゆる膿ですね、鼻の奥で細菌による炎症がおこって膿が目の横の空洞に溜まっている状態です」
母「はぁ、先生病名は何なんですか?覚悟はできていますのでハッキリとおっしゃって下さい」
医者「そうですね、単刀直入に言います娘さんの病名は………」
医者「蓄膿です。」
そう医者が告げた時に突然扉があいた。
ガラッ!
新人看護師「あれっ?」
医者「何をしてるんだ君は?今患者さんのご家族に大事な話をしてるんだ、出ていきたまえ!!」
新人看護師「すっ、すいません」
そう言ってそそくさと出ていく新人看護師。
突然の事にしばらく沈黙が訪れる。
母「先生、娘は大丈夫でしょ?軽い蓄膿なんでしょ?」
医者「お母さん、非常にいいにくいですが娘さんは重度の蓄膿です、これから抗生剤で症状をおさえますが、もしかしたらずっとこの病と闘い続けなければならないかもしれません」
それまで気丈に振る舞っていた母が泣き崩れる。
母「うっ、ううっ。」
しばらく泣き続け、ようやく落ち着いてきた母。
医者「落ち着かれましたか、それでこれからの事ですが、抗生剤をだしますので毎日食後に娘さんに飲ませて下さい、少し強い薬もありますので、もし体調に変化がありましたら、すぐにこちらへお越し下さい」
母「はい…」
医者「それと娘さんは今運動などされていますか?」
母「はい、最近走るのが趣味になった様でよく走ってます」
医者「そうですか、今後は走るのはやめた方がいいですね、もし風邪などひいたら症状が悪化する場合があります」
母「でも、走りだしてから娘は生き生きしてるんです、ちょっと位は大丈夫ですか?」
医者「お母さん!!娘さんの為です、命に関わるんですよ、わかって下さい」
母「すみません、わかりました」
医者「ありがとうございます。病気の事本人に私から伝えましょうか?」
母「いえ、私から頃合いをみて伝えます」
しばらく医者と母でこれからの事について話し合う。
その頃、彼女は青白い顔で震えながら待ち合い室で待っていた。
待ち合い室では看護師達の話し声が聞こえる、その中で一際大きな声で喋っている看護師がいる。
新人看護師「せんぱーい、やらかしちゃいましたー」
新人看護師「やっぱ後から先生に怒られますかね?」
新人看護師「でもかわいそー、まだ若いのに蓄膿なんて」
めぐみの頭の中にその声がこだまする。
めぐみ「確か今先生と話してるのはお母さん、って事は私は蓄膿?」
そう考えてるうちに母が帰ってきた、目が赤いので一目で泣いた事は明らかだ。
母「めぐみ、今日はお薬もらって帰るわよ」
めぐみ「お母さん、私の病気そんなに悪いの?」
母「いやだ、心配してるの?大丈夫よ、念の為に呼ばれただけだから」
そう言う母のこぶしが強く握りしめられているのをみて、それ以上は聞けなかった。
めぐみ「うん、わかった、でも心配したらお腹すいちゃった、今日のご飯何ー?」
母「もうっ、この子ったら」
娘は母を思い、母は娘を思い、気丈に振る舞う二人であった。
後編に続く………………かも(´Д`)