雄二と美紀 | ロックフェラー通りのクリスマスツリー

雄二と美紀

「はいー。遅刻30回おめでとー」



海が教室に入ると、雄二が教室全体に聞こえるくらいの大声で叫んだ。
雄二は、海の親友で学校にいる時や遊ぶときはいつも一緒にいる。容姿はイケメンの部類に入るのだが、なぜか女子からはモテない。時々このように大声を出したりする異常なテンションが原因であることは、海は薄々気付いているが、本人はまったく気付いていない。



「数えてんじゃねーよ。そしてうるさい」



海はめんどくさそうに、自分の席に座った。
海と雄二は席が隣で、テンションが低い海の隣にはいつもテンションが高い雄二がいる。



「なぁ、あれ見せろよ」



ニヤニヤしながら雄二は手を出した。



「なんだよあれって」



海はめんどくさそうに言い返す。



「進路調査だよ最終の」



「あぁーこれか。第一志望しか書いてねーや」



海はかばんから一枚の紙を取り出し、雄二に渡した。


「出た、東慶大学医学部。超エリート大学」



「声でけーっつーの」



「えー、やっぱ東慶にしたんだ」



横から違うクラスの美紀が話にまざってきた。
美紀は海の彼女で、学校一の美女と言われている。



「お前は何にしたんだよ」


「私はもちろんCA(キャビンアテンダント)になるための専門学校よ」



「へー、美紀CAになりたいんだ。じゃあ将来一緒にフライトする日が来るかもな」



「雄二もCAになるの?」


美紀は軽くおちょくった。


「ち、ちげーよ、パイロットだよ」



雄二はムキになって言い返した。



「てかさ、前から聞こうと思ったんだけど、なんでパイロットになりたいの?」


「やっぱさー、パイロットってモテるイメージしかないじゃん。あんなカッコイイ制服着てさ、ラジャーなんつったらもう女寄りまくりじゃん。それに、CAと社内恋愛だって出来るし」


雄二はもう鼻の穴全開で妄想モードに入っていた。



「いやらし~」



美紀は変態を見る目で雄二を見た。



「そんな理由か」



海は冷静にツッこんだ。



「じゃあお前は何なんだよ」



「俺はもちろん大切な人が病気になってもすぐ助けられるからだよ」



「うさんくせ~」



「雄二の理由よりは一億倍ましだと思うけど」



海をかばう美紀。



「ふん」



雄二は完全にふてくされた。



「美紀ー、次体育だよ」



美紀の友達が、教室の入口から美紀を呼んでいる。



「はーい、今行くー。じゃあまたね」



「あっ、美紀。俺今日バイトだから隆太の飯お願いできるか?」



美紀は、海がバイトの時は代わりに隆太のご飯を作っている。
隆太から見れば、美紀は姉同様の存在である。



「うん、わかった」



そう言って美紀は教室から出て行った。



「いーよなー。海にはあんなカワイイ彼女がいて。おまけに手料理まで作ってくれるなんて。お前の弟がうらやましいよ」



隆太の話題になり、海は医者から言われたことを思い出していた。



「なぁ、この進路調査って提出明日までだよな?」



「あぁ、そうだけど。何、やっぱ東慶受けるの怖くなって来た?」



「別にそんなんじゃねーよ」



『急いだ方がいい』という医者の言葉が海の進路を迷わせていた。