聞こえる、聞こえる、空の声~♬
お日様、隠して、笑ってる~♬
いたずら好きの雲の間に~
涙を預けて さぁ 帰ろ~♪
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夕闇迫る森の奥。木々の隙間から零れる橙色に照らされた小さな社の前。
5,6歳くらいの男の子の声で歌われている不思議な響きを持った歌が聞こえている。
それはこの国のどの地域のものでもないわらべ歌。夏という季節に浮かぶ夕日は強烈な橙色でたなびく雲を染めあげて、それでもなおあまりある力強さで、孤独な一人の少年が立つ足元からその後ろに建つ廃れた社の姿までを大きく照らし出している。まるで現世の者ではないとても不思議な感じのする少年が、ただ一点、夕日に染められた流れる雲の隙間を見つめて歌っている。その歌声はまるで故郷を懐かしむ旅人のような、とても切なく胸を締め付けるような優しいぬくもりに包まれ、その横顔は恋人を思い浮かべるような幸せなものであった。
〈 壱、物語 〉
この辺り一帯はずっと昔から鬱蒼とした森であった。近くには人の住む村があって、その村の住人は狩人や木こりをして生計を立てていたらしい。この森は人に愛され守られていたのだ。それは時に動物たちを養い人と共に共存し"恵みの森"と呼ばれて地元の民からは信仰と親愛、尊敬と畏怖の対象となり、鬱蒼としていて危険ではあったがとても生き生きとして命溢れる明るい場所であった。
しかし。数百年という長い年月の中でその信仰も廃れていく。人の心も移ろっていく。
愛されていたこの森も今では《人食い鬼の森》《呪われた森》などと呼ばれて人に見捨てられた暗く冷たい場所となった。どうしてこの森が見捨てられなかったのか。数百年という時の流れの中で何が起こったのか。人食い鬼の森とは何なのか。
私はこの森を愛する最後の一人としてずっとこの場所でこの森の研究をしている。それが私の使命であるのだと思うから。この森に隠された哀しい悲しい少年少女の物語を後世に伝えていくために。
この世がまだ現世(うつしよ)と幽世(かくりよ)との境界が曖昧で生と死が身近に感じられていた時代。人と人ならざるものがお互いの存在を意識しながらも干渉することなく、満杯の盃の酒をこぼさぬように一定の緊張と危ういバランスで水平を保つように適度な距離感で平穏を守っていた時代。そんな時代が終焉に向かっていく緩やかな流れの中に生きた〈二人〉の物語を私はここに書き残すために筆を執る。そろそろ私にも迎えがくる。だから、私自身が幽世の住人になってしまう前に私の研究のすべてを残したいと願うのだ。この物語は私のすべてだ。彼らの生き様のすべてだ。
のちにこれを読んでいる貴方に願う。貴方がこれを読み終えたならば、この森の奥にある小さな社に納めて欲しい。見ず知らずの貴方に願うのは忍びないのだが、どうか聞き届けて欲しい。
あぁ。前置きがこうも長くなってしまって申し訳ない。では、始めようか。
龍の子と鬼の子の、悲しくも優しい物語を。

