『現実世界のお客様、ようこそ、カクテルバー「イーハトーブ」へ。
そこに居る猫からまずリンゴを1つ頂いてください。
それは「万有引力の林檎」です。
いい頃合になったと思ったら、それを私に預けて下さい。
「万有引力の林檎」はその引力によって、あなたの現在の気持ちを引き出すでしょう。
私はその林檎を使って、どのお客様にも必ず1杯、オーダーメイドのカクテルをサービスします。
いいえ、ご心配は要りません。
何故なら、林檎を預けた時点であなたは既にどんな無茶な注文だってしているからです。』
看板にはこんな謳い文句が書かれている。
不定期営業なのか、こんな店今迄なかった気がするけど、とりあえずドアを開けて見ることにした。
「いらっしゃいませ。今日の現実世界はいかがでしたか?」
バーテンダーのなりをした猫が一礼して出迎えてくれた。
「今日も相変わらずでしたよ。初めて来るのですが。」
一歩入るとここは確かに、理想郷(イーハトーブ)のようであった。
猫は続ける。
「それはそれは、幸運なことです。ここにはあなた様のように現実世界で磨り減りながらも
どこかしら、理想郷を求める方が沢山いらっしゃいます。いつ来られても一向に構わないので
時には天井を突き破って来られる方までいらっしゃるのです。さあさあ、ではご案内しましょう。」
バーカウンターの中では別な猫がそれぞれのお客の相手をしながらカクテルを作っている。
「そちらのお嬢さん、お待たせしました。『眠り姫の夢』でございます。」
斜向かいには20歳そこそこであろう若い娘が座っている。
『眠り姫の夢』と名づけられたそのカクテルのグラスに、桃色をした林檎が浮かんでいるのを見ると、
恐らくそれが彼女の『万有引力の林檎』なのだろう。
娘は、恍惚とした表情を浮かべながら、カクテルグラスを引き寄せる。
猫は次に左端の男を呼ぶ
「旦那様、こちらがあの、『満月のワルツ』でございます。
月下美人を10夜ほど月の光のもとでじっくり寝かせておりますので、
さぞかし心が安らぐことと思います。」
初老の男は煙草の煙を燻らせながら、最高級であろう月下美人のカクテルを眺めている。
「ここには頼めないものはないのです。イーハトーブですから。」
さっき林檎をくれた方の猫が言う。
「取り敢えず、ワインをもらおうか。」
「かしこまりました。」
ふと天井を見上げると、花のシャンデリアがゆっくり回っている。
さっきからどこからともなく花弁がふってきていたのはこれだったのか。
時計がない。
なるほど、理想郷(イーハトーブ)には時計がないのだ。
「お客様、ワインでございます。薔薇が浮かんでおりますが、初めての方への歓迎の意を込めて。」
自分の林檎はテーブルに置いたまま暫く、放って置いていた。
とりわけ、この林檎に委ねるような物思いもないような気がしていたからだ。
やがて斜向かいの娘さんは寝てしまった。
「遊びにいったみたいだね。」
カウンターの中の猫が言う。
「ところで、お客様、そろそろ林檎がいい頃では?」
そう言われて初めて林檎を見やると、いつの間にか熟しているようだった。
「ああ、そうみたいですね。」
猫に林檎を預けることにした。
猫が私の林檎を何やら仕込んでいる合間に、ドアが開く
「いらっしゃいませ。おや、どうもお久し振りです。」
入り口の方には年齢のよく分からない婦人が立っていた。
「ええ、ちょっと「小夜曲の住み処」まで。」
不思議な会話の合間に私の万有引力はカクテルにされていた。
「お客様、大変お待たせしました。少しばかりこの林檎は面白かったもので、
つい遊んでしまいましたが、その代わり珍しいものが出来ましたよ。
そうだ。名前を言うのを忘れてました。こちらは『天空と星の旅路』でございます。
星の欠片は本来入手が難しいのですが、今年は超新星大爆発もあった関係で
比較的多量に入手できておりますので、このように沢山散りばめてみたわけです。」
私のカクテルの表面には、「星の欠片」が無数に浮かび、七色にきらきらと輝いている。
夜空の色のような、なんともいえない不思議な色の中で、もはやあの林檎は原型を留めて居ないように見えた。
一口。
すっと飲む。
どこまでも飛んでいける・・・
「強いかもしれませんが、そのうち慣れます。」
猫は言う。さっきの婦人が初老の男の隣に掛け、注文をする。
「小夜曲の住み処を1つ。」
「かしこまりました。現実世界では許されぬ恋とて、ここではただただ美しいものです。」
訳有りらしい2人と夢に遊ぶ娘と、私はあまりにも引っ掻き回されてばかりな現実世界から次第に乖離して、「旅」を始めた。
どこまでも飛んでいける・・・
どこへでも行ける・・・
そこに居る猫からまずリンゴを1つ頂いてください。
それは「万有引力の林檎」です。
いい頃合になったと思ったら、それを私に預けて下さい。
「万有引力の林檎」はその引力によって、あなたの現在の気持ちを引き出すでしょう。
私はその林檎を使って、どのお客様にも必ず1杯、オーダーメイドのカクテルをサービスします。
いいえ、ご心配は要りません。
何故なら、林檎を預けた時点であなたは既にどんな無茶な注文だってしているからです。』
看板にはこんな謳い文句が書かれている。
不定期営業なのか、こんな店今迄なかった気がするけど、とりあえずドアを開けて見ることにした。
「いらっしゃいませ。今日の現実世界はいかがでしたか?」
バーテンダーのなりをした猫が一礼して出迎えてくれた。
「今日も相変わらずでしたよ。初めて来るのですが。」
一歩入るとここは確かに、理想郷(イーハトーブ)のようであった。
猫は続ける。
「それはそれは、幸運なことです。ここにはあなた様のように現実世界で磨り減りながらも
どこかしら、理想郷を求める方が沢山いらっしゃいます。いつ来られても一向に構わないので
時には天井を突き破って来られる方までいらっしゃるのです。さあさあ、ではご案内しましょう。」
バーカウンターの中では別な猫がそれぞれのお客の相手をしながらカクテルを作っている。
「そちらのお嬢さん、お待たせしました。『眠り姫の夢』でございます。」
斜向かいには20歳そこそこであろう若い娘が座っている。
『眠り姫の夢』と名づけられたそのカクテルのグラスに、桃色をした林檎が浮かんでいるのを見ると、
恐らくそれが彼女の『万有引力の林檎』なのだろう。
娘は、恍惚とした表情を浮かべながら、カクテルグラスを引き寄せる。
猫は次に左端の男を呼ぶ
「旦那様、こちらがあの、『満月のワルツ』でございます。
月下美人を10夜ほど月の光のもとでじっくり寝かせておりますので、
さぞかし心が安らぐことと思います。」
初老の男は煙草の煙を燻らせながら、最高級であろう月下美人のカクテルを眺めている。
「ここには頼めないものはないのです。イーハトーブですから。」
さっき林檎をくれた方の猫が言う。
「取り敢えず、ワインをもらおうか。」
「かしこまりました。」
ふと天井を見上げると、花のシャンデリアがゆっくり回っている。
さっきからどこからともなく花弁がふってきていたのはこれだったのか。
時計がない。
なるほど、理想郷(イーハトーブ)には時計がないのだ。
「お客様、ワインでございます。薔薇が浮かんでおりますが、初めての方への歓迎の意を込めて。」
自分の林檎はテーブルに置いたまま暫く、放って置いていた。
とりわけ、この林檎に委ねるような物思いもないような気がしていたからだ。
やがて斜向かいの娘さんは寝てしまった。
「遊びにいったみたいだね。」
カウンターの中の猫が言う。
「ところで、お客様、そろそろ林檎がいい頃では?」
そう言われて初めて林檎を見やると、いつの間にか熟しているようだった。
「ああ、そうみたいですね。」
猫に林檎を預けることにした。
猫が私の林檎を何やら仕込んでいる合間に、ドアが開く
「いらっしゃいませ。おや、どうもお久し振りです。」
入り口の方には年齢のよく分からない婦人が立っていた。
「ええ、ちょっと「小夜曲の住み処」まで。」
不思議な会話の合間に私の万有引力はカクテルにされていた。
「お客様、大変お待たせしました。少しばかりこの林檎は面白かったもので、
つい遊んでしまいましたが、その代わり珍しいものが出来ましたよ。
そうだ。名前を言うのを忘れてました。こちらは『天空と星の旅路』でございます。
星の欠片は本来入手が難しいのですが、今年は超新星大爆発もあった関係で
比較的多量に入手できておりますので、このように沢山散りばめてみたわけです。」
私のカクテルの表面には、「星の欠片」が無数に浮かび、七色にきらきらと輝いている。
夜空の色のような、なんともいえない不思議な色の中で、もはやあの林檎は原型を留めて居ないように見えた。
一口。
すっと飲む。
どこまでも飛んでいける・・・
「強いかもしれませんが、そのうち慣れます。」
猫は言う。さっきの婦人が初老の男の隣に掛け、注文をする。
「小夜曲の住み処を1つ。」
「かしこまりました。現実世界では許されぬ恋とて、ここではただただ美しいものです。」
訳有りらしい2人と夢に遊ぶ娘と、私はあまりにも引っ掻き回されてばかりな現実世界から次第に乖離して、「旅」を始めた。
どこまでも飛んでいける・・・
どこへでも行ける・・・




